第18話 レッツ栽培(4)

 リアは意外と手際がいい。俺のノートを見ながらさっさと苗木や苗を植えていく。


「これは……」


「それは塩が出るから他の野菜と離す。うーん、木箱に腐葉土いれてそっちに植えよう」


 そういえばあのクモイモ。俺が引き取って土モグラたちの餌にしたんだった。ちょっと工夫すれば毒抜きはできるのだが手間がかかるのでモンスターに食わせて腐葉土にしてしまう方がコストがよかった。

 おかげさまでプランター代わりの木箱が大量に農具小屋に収納されている。


「シューちゃんって、女の子だったんですね」 


 リアは木箱を並べ、スコップで腐葉土をいれながら言った。話しながらも手を動かせるのはさすが定食屋の看板娘といったところだ。


「S級魔物だし、あれが本来の姿なんだってよ」


「へぇ……大人っぽくていいなぁ」


 うーん。

 確かに色気はない。

 上から下まで、なんというかリアは子供っぽいというか、芋っぽい。

 看板娘であればこういうのが人気だろうが、ギルドの受付嬢たちのような華やかさはないし、なんというか貧相だ。


「な、なんですかっ! ジロジロみて」


 めんどくさそうなのでリアを無視して俺は七苺セブンベリーの苗木をフィオーネが堀った穴にそっと下ろし土をかけてやる。


 キューキュー


「ほしいか、ん。しゃーない」


 いくつかベリーを捥いで土モグラたちの巣箱の方へ投げた。ぶわっと群がって嬉しそうな鳴き声が上がる。

 かわいいなぁ……。


「ソルト〜、そろそろ肉を焼くにゃ!」


 呑気に窓から顔を出したシューはリアに向かってフシャーッと威嚇した。どうやらシューはあの時のことをまだ許していないらしい。

 そもそも、シューは人見知りだ。魔物の血が入っているフィオーネにはよく懐いているので錯覚していたが、本来はこんな感じなのかもしれない。


「今日はここまでだな。じゃあ、明日朝の8時。きっかりだ。朝飯は勝手に食ってこい」


 リアを追い出して、俺はやっと家に入った。シューの吸うタバコの香りとコーヒーの香り。フィオーネは水浴びに言ったようだった。


「肉にゃ!」


「あいよ」


 休む間も無く入れられたリクエストに応えるように俺は台所へ向かった。植えたのとは別、ダンジョンで手に入れた肉花草の果実の臭みを酒でとる。岩塩とコショウで下味をつけて……


——ジュワー


 バターを溶かしたフライパンへと優しく寝かせる。シューは切ってやらないと食べないからナイフも用意しとかないと。

 香草の残りを確認しながら「香草も育てようか」と考えてみる。

 マダムに人気な香草であれば商店で買えるだろうし、プランター代わりの木箱も死ぬほど余っている。


「いい匂いにゃぁ」


「なぁ、シューお願いがあるんだ」


***


「嫌だにゃ! 離すにゃ!」


 ステーキを食べて満腹になったシューは暖炉の横で横になっている。もふもふの腹毛は他の猫よりも少し長毛で触りごこちが良い。

 顔を埋めて鼻から息を吸ってみると、お日様の香りがする。


——なんて幸せなんだぁ


 女の肌より猫の肌。

 もふもふ最高、お日様の香り最高!


「フシャーッ!」


 ひっ! 

 シューの爪が眼球を掠め、俺は飛び退いた。シューが人型だと判明してからこれができずにいた。この猫吸いは俺の唯一の癒しであり至高の瞬間なのだ。


「にゃっ!」


 シューは俺の腕の中からぴょんと飛び降りると水浴びから帰ってきたフィオーネの後ろに隠れた。背中と尻尾の毛を逆立て、警戒している。

 

「悪かったって」


「まったく、男の人はほんっとわかってないんですから」


 フィオーネはひょいとシューを抱き上げて2階へと上がっていった。俺はソファーに戻ってごろりと寝転がる。

 明日にはいくつかの作物が収穫できるだろう。フウタたちに協力させてどんくらい儲けられるか実験して……。

 そうだ、親父の店に余ってる酒樽をいくつかもらってこよう。沼花の果実でワインを作ればかなり儲かるぞ。だとすると砂糖が必要か。

 根っこを湯がいて砂糖が取れる植物は、どのダンジョンだったか。


 暖炉の炎がチリチリと揺れ、俺は眠気に誘われる。


 色々巻き込まれてしまったが、なんとか農場ライフを楽しめそうだ。

 可愛い相棒に素直な用心棒、しっかり者の弟子まで出来てちょっと恵まれすぎか?

 いや、そんなこと考えてるとバカが寄ってくるからやめだ。


 

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