第17話 レッツ栽培(3)

 リアはタケルのパーティー唯一の生き残りだと言い、それから不器用に頭を下げた。


「私、鑑定士なのに……守ってもらえればどんな鑑定士でもおんなじだって思ってたんです」


「何があった?」


「タケルさんのおかげで難なくダンジョンのセーフティゾーンについて、私たちは採集した果実とそれから準備して行った肉を焼いて食べました。そしたら……それが何らかの錯乱作用があったみたいで……私たち気がついたらセーフティゾーンから出てモンスターと戦ってました」


 リアは涙を流しながら惨状を話した。あのS級回復術師のマリカがモンスターに食われて回復手立てを失い、魔術師たちは魔力が尽きてタケルの努力も虚しく食われた。

 それでもタケルはリアをかばいながらなんとか上層までたどり着いたが、発見された2人はコボルトどもが群がり瀕死の状態だったそうだ。

 ただ、その時にはリアは意識を失っておりあまり記憶がない。

 どおりでコボルド柄の可愛い眼帯ができるわけだ。最上級の大型コボルトは可愛いなんてもんじゃないからな。


「あなたの忠告を聞くべきでした」


「私、最強の戦士様のパーティーになぜか選ばれて有頂天になってました。仲間に歓迎されて、それにタケルさんも」


 で……こいつは俺に何の用なんだ。

 女ってのは話がまとまらないし、何より長い。

 こういう時、フィオーネくらいアホだと助かるんだがなぁ。


「ゾーイさんのこと。病院で聞きました。タケルさんを独占したいから……わざと、無能な新人をタケルさんに押し付けて……S級であるあなたを追放させ、タケルさん以外のパーティーを壊滅させることが目的で……そのあとっ、あなたは罪を着せられてブラックリストに」


 言い終わるか終わらないかで「えーん」と泣き出すものだから俺たちは通行人の視線を集めている。

 本当に勘弁してほしい。


「もういいから、じゃあ忙しいんで……。お元気で〜」


 シューを荷車に乗せて、俺は駆け足でギルドを後にする。面倒事に巻き込まれるのはごめんだし、なによりああいう類の女は嫌いだ。

 さっさとバカな戦士でも捕まえてどっかに消えてくれ。


「ソルトさん! 待ってください〜!」


「ついてくるな!」


「いやです! お願いがあるんです!」


 予想以上に足の速いリアにマントを引っ掴まれて俺の首がぐえっと音を鳴らす。

 死ぬって! やめてくれ!


「私を、私を弟子にしてください」


「無理っす、俺引退したんで」


「じゃあ、復帰してください」


「嫌です」


「なら私を雇ってください」


「嫌です」


「じゃあ、私を」


「うるせぇ! お前の顔見てると……嫌な思い出蘇るんだよ! 消えてくれ!」


 リアは驚いたのかショックを受けたのか口を閉じ俯いた。彼女の瞳から涙が溢れ、地面へと落ちていく。

 女の子相手にいい大人が怒鳴るべきじゃなかったか? 言葉が強すぎたか?

 罪悪感が俺の脳内に駆け巡った。


「私が……未熟じゃなかったらみんなのこと死なせずに済んだのに。もっと勉強してたら、強かったらって後悔してるんです。でも、鑑定士をやめたいって思わなかったんです」


 リアは諦めたような笑みを浮かべて続ける。


「タケルさん以外のみんなは私を恨んでると思います。こんなはずじゃなかった……こんなはずじゃなかったって……耳から離れないんです。私が生き残ったのは、きっと」


 よく考えてみれば彼女も被害者だ。

 あの受付嬢がわざと新人鑑定士だったリアをタケルのパーティーにあてがい、超上級ダンジョンに入場させられたのだ。

 本来であればS級冒険者パーティーだとしても新人がいれば難易度の高いダンジョンは避けるのに。


 自分のせいで仲間が死に、自分もモンスターに食われかけた。

 その恥だけでなく、直前に足蹴にして追い出した俺に頭を下げる彼女の勇気はどれほどのものだろう。

 ブラックリストに入ったくらいで尻尾を巻いた俺なんかとは比べものにならないかもしれない。


——でも、これ以上人が増えるとスローライフに弊害が……


「立派な……立派な鑑定士になりたい! 私に教えてくれませんか! なんでもします! な! ん! で! も!」


 あーあーあー!

 俺はリアの口を塞いで黙らせる。こんな大勢のまで勘違いされるようなこというんじゃねぇ!

 まるで俺が可愛くて若い子に変なことしようとしてるみたいじゃないか!


「これからこの植物を畑に植える。特殊な植え方だ。手伝ってほしい」


「はいっ! 親分!」


 殴りたい気持ちを押し込めて、俺とシューはリアを連れて農場へと向かった。

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