第6話 冒険者引退(2)
「あいつ、いつまでついて来るのにゃ」
ぴょいと俺の肩に乗ったシューがブツブツと愚痴った。念願のフリーパスを手に入れた俺はもうギルドへ行かなくていいと思うと気持ちは晴れやかだった。あの女狐に会わなくて済むし、職業柄バカにされることも少ない。
問題は俺たちの後ろをつけて来るバカ女戦士である。
戦士っていうのはどいつもこいつも聞かん坊でバカなのか。そもそも、パーティーを組みたいならもっと安い鑑定士を探して初級者用ダンジョンから潜るのがいいだろう。
それに、フィオーネなんて名前に聞き覚えがないことを考えるとS級の戦士ではなさそうだし。
「しらねぇが厄介だな……。シュー、頼めるか」
「しゃーにゃいにゃ」
シューがしっぽをぶんっと振った。すると俺たちは紫色の煙に包まれて透明になる。幻影魔法だが、バカ戦士にはちょうどいいだろう。
「あれっ、ソルトさん! ソルトさーーーーん!」
***
急ぎ足で親父の店まで戻って、シューは人間の姿に戻った。今日は散々だったから仕方ない。
「親父〜、飯」
「ったく、穀潰しめ」
憎まれ口を叩きながらも手を動かしてくれる親父に感謝しながら、俺はフリーパスを眺めた。首にかけれるように紐が通された
この魔法石がダンジョンへ繋がる魔法陣とリンクして入場することができる。なんて便利な世界だろう。
「で、農場の方はどうするにゃ?」
シューはあったかいミルクを唇につけてなんとも愛らしい表情をしている。
「これがあればなんとかなりそうだ」
フリーパスを首にかけて、俺は目の前に出されたまかない飯を食べ始める。沼花のタネを除去するのは簡単だ。だが、せっかくの沼花を殺すのはもったいない。できれば上手に栽培してあの美味しい果実で商売をすれば……?
「なにニヤニヤしてるにゃ」
「なぁシュー。植物をそだてるだけでのんびり農場生活。いいだろう? 小麦のベッドで日向ぼっこ。雨の日はあったかいミルクと美味しいパイ」
シューの顔がとろけるように笑顔になる。しばらくはこの宿から通う必要があるが小屋さえなんとか住めるようになれば俺たちの天下だ。
あと少しの辛抱だ。
——あとすこ……
「ごめんくださーーい! ここにソル……あっ! やっと見つけた!」
バァン! と大きな音を立てて開いた扉。汗だくの女戦士は真っ白な歯を見せて笑っている。
まさか……?
「全部の家をまわったんです! よかったー! 107件目ですからそこそこ早くみつかりました!」
シューが人間の姿のままフシャーッと威嚇し、親父は
「いらっしゃい」
と挨拶をする。
「私、フィオーネ・クランベルト。C級戦士、冒険者経験ゼロです!」
また厄介な子を連れてきたなぁと親父が苦笑いを浮かべる。シューはそぉっと2階へ避難し、フィオーネは俺の前に跪いた。
「あの最強のパーティーで鑑定士をしていたと聞きました。貴方ほどの方が引退なんてもったいない。お願いです。私を貴方のパーティーに入れてください」
にっこりと微笑んだ顔はとてつもなく美人で、恵まれた金髪はサラサラとなびいている。鎧の隙間から覗く豊満な胸がなんとも言えない色気を放ち、俺はクラクラする。
「バカにゃ!」
ポコンと頭をひっぱたかれて我に帰る。
見上げるとプンプンといわんばかりの顔をしたシューが仁王立ちしていた。
「なんのつもりにゃ。クランベルト家……サキュバスの血を引く女戦士さん」
フィオーネの笑顔が引きつった。
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