第39話 えらばなければ

 景色が切り替わり、目の前には古びたローブに身を包んだ……男?

「君も抗うねぇ」

「誰だ、あなたは」

「僕は旅獣だよ」

「旅獣? そんな獣がなぜ今、ここに」

「先代の柱だからね」

「なん……柱は代替わりしたら消えるんじゃなかったのか」

「そうだけど、まあ、幻影みたいなものかな」

 つまり、化かされているのか?

「まあ、きつねくんの……最後の未練、って感じかな」

「未練……」

「僕なんかを生み出すってことは、まだ未練が残ってるって証拠さ」

「なぜわかる」

「だってそうだろ?」

 わかるだろ、と先代柱。

「……」

 わからなくて、周囲に目をやる。

 瓦礫、瓦礫、瓦礫まみれ。

 いわば、瓦礫の山、といったところか。

「ま、精神世界みたいなものだね。一時的に君はそこに避難してる、的な感じさ」

「ふむ……」

「僕がこの世界を維持していられる時間はそう長くはない。もって一晩。それまでに君は……」

「俺は?」

「決断しなければいけないんだ」

「決断……」

「承認して柱になるか、拒否してどこかに逃げて、世界の存続を拒むか」

「拒否なんかできるのか。機械が追ってくるだろ」

「まあ、隠すことはできる。僕はきつねくんの意志だからね。きつねは優秀、自分で自分を騙すのもわけないってことだろう」

「は」

 俺は笑ってしまう。いかにもきつねの言いそうなことだ。

「とりあえず、回想に連れてってあげるから、そこで考えるといい」

「あ、おい、」

 ぱ、と景色が変わる。

 選択権がないのはこちらも同じか。

 まあ、考えるさ。考えなければ、終わってしまうのだから。

 それだけが俺の取り柄なのだから。

 煉瓦の山から。

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