第32話 みずのなかで
水の中、二匹で、なんとなく船体に沿って泳いでいる。
「海藻は残ってるのに魚はいないって不思議な感じだな」
「たぶん、活性度とか判定されてる感じなんでしょうね」
「海藻も生きてるのにな」
「博愛主義者みたいな発言やめてくださいます?」
「なんでだ、海藻生きてるだろ」
「わかめは食べるくせに」
「食べるぞ、おいしいし」
「そういうところに情緒を感じたりはしないんですか」
「昔は感じてたけど、考えても無駄だと思ってからやめた」
「君でも考えることを無駄だって思うことがあるんですか!?」
「何だよ。考えるのは無駄だと思ってる、けど……」
俺はそこで口をつぐむ。
「けど?」
嫌われないかと心配しかけた。でも、きっとこれを言ってもこいつは俺を嫌わない。そう、考える。
「考えること、、やめられないからやってる。俺は、自分がぐるぐる考えてしまうことが嫌いなんだ。無駄だと思ってる。気も逸れてしまうしな。でも、やめられないんだ。嫌だな、と思いながら、それでもやってしまう。もうこれは性分なんだと思ってるけど」
「たぬきくんはそれを変えたいんですか?」
「うーん、ここまで来るともうどうだろうな。考えるイコール俺みたいになってしまっているから、やめたら俺ではなくなってしまうようなそんな気もしてるんだ。きつね、お前は……」
どう思う、と訊こうとして、やめる。ここで訊いてしまうのは何だか無責任な気がした。
「ふ」
きつねが笑う。
「僕はぐるぐる考える獣は嫌いじゃないですよ。一生懸命でかわいいでしょ」
「かわいいってお前……」
「何度も言ってるでしょ、たぬきくんかわいいって」
「ふざけてるのかと……」
「ふざけてませんよぉ本気ですよぉ」
「本気でも困るけどな……」
俺、どちらかというとかっこいい系のたぬきを目指したいんだが……
「え~たぬきくんがかっこいい系? 一生無理なんじゃないですかぁ?」
「なんだと」
「努力もせずにかっこいい系目指すとか絶対無理ですって。メイクとかするんならまた別ですけど、君ってそういうの全く一切興味なさそうですしぃ?」
「む……」
俺は黙った。確かに、努力は嫌いだしなるべくしたくない。けどそれでこいつに……、何だ? 今俺は何を考えた?
「素がイケメンならまた違ったかもしれませんけどねぇ、はは」
「お前……」
俺はため息をついた。一瞬でも妙なことを思った自分が馬鹿だった。こいつに対してかっこつけてもすぐ看破されるに決まってる。
「きつねは聡いのでぇ」
「はいはい……」
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