第33話 むくろのふねで

「あ、ヒト型でも入れそうな穴はっけーん」

「本当だな」

 なぜ獣型に戻らないかって、それには深い理由がある。たぬきおよびきつね、化ける者の間ではなぜか、なるべくヒト型で過ごすべしという掟があるからだ。

 修練のためかもしれないし、近代化が進んでヒトが自然深くに入ってくるようになり発見されるリスクが高まったそれへのリスクヘッジかもしれない。その辺りはよくわからない。だがともかく俺もヒト型でいた期間の方が長くなっていたし、特に何事もなければヒト型で過ごすようになっていた。きつねは知らん。何考えてるんだあいつ。ひょっとして俺に合わせてくれてるんだろうか。そうだとしたら少し申し訳ないような気もするが、そういう思考は信じるという観点から見ると適切な流れではないと思い直す。が、やっぱり感謝はしてしまう。

「ほら、先行ってください、たぬきくん」

 船体に空いた穴を指し示して、きつね。

「ああ、わかった」

 先に行くのももう慣れたものだ。俺はすいいと船体の中に入った。

 船体内は意外と明るく、というか、白かった。

「これ、ひょっとして」

「ええ、例の遺跡でしょうね」

 いつもポータルが置いてある謎の遺跡。船の中がこんなことになっているとは思わなかった。

 どうして俺たちが謎の遺跡を辿って旅をしているのかはよくわからないが、それで色々なところを巡れるなら楽なものだ。巡ったところはことごとく無に侵食されていたが……

「ほらほら、進んでくださいたぬきくん」

「ああ」

 すいすい泳ぐ。俺は泳ぎはあまり得意ではなかったが、この水中ではなぜか適当でも普通に進んでくれる。おかげで遅れず進めていた。まあ遅れたとしてもきつねは合わせてくれていたと思うが。

 白い壁はつるりとしていて、外側にあれだけ生えていた海藻は一つも見当たらない。どういう仕組みなんだこれ。すごいな。

 そんなことを考えながら泳いでいると、広場が見えてきた。

「ポータルがありますねぇ」

「そうなのか」

「ええ」

 目を凝らす。まだ見えない。

「やっぱり俺、目が悪いんだな」

「たぬきくんの目が悪くても僕がちゃんと見てますから問題なーし」

「そういう問題か?」

「そういう問題でしょ。バディだし?」

「バディだったのか俺たち」

「そうですけど?」

「知らなかった……」

 二人一組のやつじゃん。

「そんなことよりねぇねぇたぬきくん、ここいらで一旦休憩しませんか?」

「休憩」

 そういえば、ここまでで休憩らしい休憩は樹海のバーでしたのが最後だ。全く疲れないから忘れてしまっていた。

「一晩くらい休んでも罰は当たらないでしょって」

「……そうだな」

 広場には光が差し込んでいる。

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