第24話 ねむりつづける

 バーから出て、とりあえず歩いている。

 きつねの身体は軽くて、何も背負ってないみたいっていうのは言い過ぎだが、俺の体力がついたのかどうかはわからないけども全然疲れない。

 まるで俺に背負われるために生まれてきたみたいに。

 いやそれは冗談だ。さすがに。でも冗談はともかく、これならずっと寝ててくれても問題ないレベル、いや、それも冗談レベルだ。問題なくはない。俺はたぶんこの数時間できつねの無駄口に慣れきってしまって、ないと寂しいと感じるまでになっている。

 きつね。呪に囚われてしまったようなのは心配だが、この樹海から出れば呪は解けるだろう。

 なんとなく、そんな直感があった。

 俺一匹の力で出られるのかどうかはわからないが。

 そんなことを考えながら、歩く。

 木々が密集していて歩けないということは不思議となく、かろうじて前に進めるレベルの密集具合。

 だが今のところ歩いても歩いても木々ばかりで、出口らしきものは見つからない。

 樹海。

 俺のいた国にある例の樹海は来た者の方向感覚を狂わせ迷わせるという噂もある。

 微弱な磁場が関係しているとか、それが精神にまで影響を与えるだとか、元職場のヒトたちが軽いノリで話していたのを小耳に挟んだだけでよく知らないし興味もないのでわからないが、要は化かされるってことか?

 今の俺はヒトに化けているから、化かされ耐性はゼロだ。さっきの村でも化かされたしな。

 でもこの樹海は俺のいた国のあの樹海というよりはむしろ、ジャングルとかそういう感じの樹海な気がする。木々の葉っぱとかすごい緑だし、暑いし。

 万が一、長い間出られなくても、疲れないし腹も減らないし、迷っても同じとこをぐるぐるしなければいつか端っこには辿り着く。

 疲れないし腹も減らないというのは普通に異常なのだが、実際疲れないものは疲れないし、腹も減らない。どんな異常な状況でも、なってしまえばそれが普通になるのだなとぼんやり思った。

 そういえば、と思考が飛躍する。

 俺の背中ですやすや寝ているこのきつねは、どんな状況で生きてきたのだろう。

『ずっと一匹だったんですよ。今更ちょっと一匹になったぐらいで心細くなるわけないでしょ』

 ずっと一匹だった、つまり俺と同じ?

 いや、そんな簡単に一緒にしてしまってはいけない。きつねにも失礼だろうし。

 あの時のきつねには触れると壊れてしまいそうな脆さ、危うさがあった。

 俺一匹が体験したつまらぬ孤独ごとき、あいつは耐えてみせるだろう。

 それならあいつが経たのは何なのか。訊いても答えてくれないだろうし、そもそも訊けない。それで嫌われることになったら、と、やっぱり思ってしまうし。

 と、足が何かを蹴った感触。厚く積み重なった葉の隙間から、レンガが見える。

 レンガ?

 先を見ると、木々に埋もれるようにしてレンガの道が延びていた。

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