第23話 ぬってもぬっても

 肘をついて寝てしまったきつねを見ながら、俺はミルクに口をつけた。

 妙な機械に出されたミルクとか飲んでも大丈夫なのかどうか疑わしいが、きつねが飲めばと言うのなら、大丈夫なのだろう。

 ストローで吸う。

 普通の牛乳の味だ。何がミルクだ、かっこつけてからに。無駄におシャンティなんだよ。

 っていうかきつねの寝方もおシャンティだよな。肘ついて寝るとか、漫画かよ。俺だったら机につっぷして寝るよ。

「……黙ってりゃ綺麗なのにな」

 言ってしまってから、テンプレ発言をかましてしまったことに気付いた俺は赤面した。きつねが起きてたらものすごく馬鹿にされたと思う。いや、一度言ってみたかったんだよこの台詞。だって俺ぼっちだし、そんな台詞言う機会これまでの獣生で一度もなかったし。いいだろテンプレ発言するくらい。

 心の中で言い訳を考えてみても、言う相手が寝ているのでつまらないものだ。

 まあ黙ってても黙ってなくてもこいつは綺麗な顔をしている。イケメン、ってやつだな。認めてしまうのは少々癪だけど。

 あーなんで俺はイケメンに化けられないんだろうか。俺の内面が非イケメンってことか? 畜生。自分のヒト顔は嫌いではないが、もう少しかっこよかったら人間たちからももう少し優遇されて……ないな。ないわ。だって内面が外見に表れてるのが化生だし、俺が俺である限り、俺はこの外見にしか化けられないんだよな。はー。

 思考が一段落ついたところで、チキチキという音。見ると、機械が去って行くところだった。

「あ、おい待てよ」

 声をかけても機械は止まることなく、階段を昇って去って行ってしまった。

 ミルクのお礼を言い忘れてしまった。

 まあ、いいか。化かされたっていう貸しが一つあるし。あ、でも、きつね的には別個体なんだったか。なんでわかるんだ。全部一緒に見えるんだが。

 でもそれを聞いたらきつねなので、で流されそうな気もする。いつものように。

「きつね」

 返事はない。

「おい」

 つんつんとつつく。

「きーつーね」

 揺さぶってみる。

 反応がない。

 おかしい。

「きつね?」

 もしや。

 俺は周囲に目をやる。窓から、壁から、ツタがきつねに向かってゆっくりと伸びてきていた。

「……!」

 きつねの言っていた「呪」か?

 とりあえず、すぐに離れた方がよさそうだ。

 俺は椅子から立ち上がり、きつねをずるずる引きずって持ち上げ、背負う。

 軽いな……いやそんなことはいいんだ。

「……」

 バーのドアを引いて、外に出た。

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