第13話 するよりほかは

 無に落ちかけはしたが、それから注意して相変わらず霧の中を歩いている。

 そういやこっちに来るときに捨てたスマホに入ってたソシャゲ、もうログインできないな。

 SSRとか結構あったんだけど。

「SSRといえばさ」

「SSRってなんですか?」

「あ、そこから? スペシャルスーパーレア」

「レア?」

「カードゲームとかソーシャルゲームとかであるんだよ、最上級のレア度のこと」

「特別な呼び方しなくたって『レア』だけでいいじゃないですか」

「格差をつけないといけないんだよ、射幸心を煽るために」

「へぇ。で、それが?」

「お前がレアたぬきって言う度に俺はそこまでレアじゃないのかなって思うんだ」

「レアたぬきはレアですよね?」

「ソシャゲとかのレアはそこまでレアじゃないんだよ。10枚引いたら6枚レアだったりするやつもある」

「ははあ」

「だからレアはそんなにレアじゃなくて、レアたぬきもそこまでレアじゃないのかなと」

「なんでそこまで気にするんです。自分がレアだろうがレアじゃなかろうがどうでもいいじゃないですか」

「お前は自分がSSRだからそういうことが言えるんだ」

「確かに僕はウルトラスーパースペシャルベリーベリー山盛りトッピングハイパーレアですが」

「盛るなあ」

「スタパのフラペチーノ最近飲んでませんね」

「このご時世じゃな。閉まってるだろ」

「閉まってないとこもあるでしょ」

「知らん、興味ない」

「君、スタパとか行かなさそうですもんねぇ」

「休日は寝てる」

「ふ、そんな感じしますよ」

「休日遊びに行ける奴とかどんな体力してんのって思う」

「はあ、僕はきつねで毎日が休日なのでそういうのは知りませんけど、多少の無理はしてるんじゃないですか? っていうか近頃の情勢が情勢ですよ、休日に遊びに行くってのも無理でしょ」

「そうだな」

「で、レアたぬきの話でしたか」

「そうだ」

「そうは言っても僕の言うレアたぬきはレアたぬきであってレアたぬき以上の何者でもないんですよねぇ。急に言葉の定義をアップデートしろって言っても難しい話ですし」

「……」

「違いがあるってことじゃダメなんですか? あ、わかってますよダメってんでしょ。仕方ないたぬきくんですね君は本当に」

「仕方がないたぬきっていうのはもう知ってる」

「そういう文脈じゃないですよ。そもそもスペシャルスーパーウルトラレアじゃないからって落ち込む必要はないんですよ君はレアたぬきなんだから。それにたぬきの里が無になった以上、君はオンリーたぬきでしょ。スペシャルスーパーウルトラレアじゃないですか」

「なんか、それも嫌だな」

「嫌なんですかぁ?」

「というかたぬきの里が無になったのにあんまりショック受けてない自分も嫌なんだ」

「唐突な話題転換!」

「お前の話題転換も唐突じゃないか」

「いいんですよきつねだから」

「はあ」

 そこから何か返ってくるかと思ったが何も言わないのできつねの方を向いたら一方向を向いていて、どうしたと聞いたら

「あそこ霧がないですね」

「どこだ?」

「そのうちわかります」

 そのうちってどのうちだと思いながら歩いていたら唐突に霧がなくなり、

「こんな場所、里にあったか……?」

 石でできた壁と天井が広がる、洞窟のような場所。里の儀式の洞窟かと思ったが、それにしては凹凸が少なく、人工物のような印象も受ける。

「無なんですから何でもありですよ。探索しましょ。ワクワク!」

 洞穴探検です、と呟くきつねはどこか楽しそうだった。

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