第14話 せまいばしょ

「せっまいですね!」

 洞窟は思ったより小さく、すぐに奥に行き当たってしまった。

「探検ですとか言ったのはお前だろ」

「もっと広いかと思ってたんですよぉ」

 はーときつねがため息をつく。

「それにこんな新しそうなオブジェっぽい、何ですか? もっと歴史あるたぬきの里らしい間抜けな像とか期待してたのに何ですかこれ」

 一番奥と思しき場所には、前衛芸術みたいな丸みのあるオブジェのようなものが安置してあった。

「何ですかって、オブジェだろ」

「つまらない。本当につまらないですよ。こんな場所……」

 きつねがぽんとオブジェに手を置く。

 途端、オブジェが光輝いた。

 うわ何だ、と俺。

「ほらね、こういうことがあるから嫌いなんですよ現代の建造物は」

 きつねは光の中で両手を広げ、肩をすくめた。

 こんな状況の中でもキャラを崩さないでいられるとかすごいな。

「ものすごく眩しいんだが、何とかならないのか?」

「知りませんよ。君が何とかしてみたらどうです」

「最初に触ったのはお前だろ」

「まあまあそう怒らずに。ね」

 きつねが俺の手を取り、オブジェの上に置いた。

「あっ何勝手に」

 ぱ。

「何だ!?」

 突如周囲の景色が切り替わる。

 霧が立ち込めた、村?

「洞窟に村が隠されてたのか……?」

「落ち着いてください、そんなわけないでしょ。転移ですよ」

「転移だと?」

「たぶんポータルだったんでしょ、あのオブジェ。よくあるんですよね。謎のオブジェとか謎のアイテムとかが実はポータルでしたって例」

「ポータル?」

「つまり、僕たちは洞窟から別の場所に移動したってことですよ」

「へえ……」

 俺は辺りを見回す。

 確かに、たぬきの里ではない。どことなく建造物の雰囲気が違う。なんか西洋風、ゲームとかに出てくる、旅立ちから二番目くらいの村っぽい感じだな。田舎すぎず、かといって街というほど垢抜けてはおらず、小さい教会とか家とかが間隔開けて立ってる感じの「村」。ちなみにたぬきの里はもうちょっと和風で、ごみごみしている。

「里とはまた違ったダサさですね」

「馬鹿お前、初めて訪れた場所をそんな風に貶すなよ。怒られるぞ」

「それって里がダサいって認めてるってことですよね」

「いや、それはその、うん……」

「ふ」

「やめろよそういうの」

「やめませんよ、きつねなので?」

「はあ」

「冗談はともかく、散策しましょう散策。今度こそ楽しくなると信じてますよ僕は」

「落ち着ける場所を探す旅に楽しさとかいらんだろ」

「わかってませんねえ。常に楽しいことを探してるんですよ僕は。楽しいって素敵でしょ。君も真面目一辺倒じゃなく少しは遊びを覚えた方がいいですよ。そうじゃなきゃ」

「そうじゃなきゃ?」

「どうなると思います?」

 目の前には煙ならぬ霧に巻かれた村。

 隣にはすぐに話を煙に巻くきつね。

 里から出て最初の場所がこれというのには運命すら感じなくもない。

 嘘言った。別に運命とか感じてない。正直どうでもいい。この村が安全な場所であることを願うばかりだ。

「はあ。行くぞ」

「はーい」

 そうして第二の探索が始まった。

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