第12話 しらないふりで
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……ここは。
「目、覚めました?」
「俺は……里に帰ったはずじゃ」
「うーん、僕のことわかります?」
金髪。濃緑色の瞳。
「えーと」
「しっかりしてくださいよ、たぬきくん。誰が無から引き上げてあげたと思ってるんです」
「えーとえーと……」
「ちょっとぉ。し・っ・か・り・してください」
ぽんと肩を叩かれる。途端。
『きつねですよお』
『嫌いませんから』
……!
「きつねか!」
「そうですよお、君の大好きなきつねです」
「いや大好きではない」
「なんで否定するの! ひどい!」
「いや俺たちまだ出会ったばかりだし」
「助けてあげたでしょお!」
「え?」
「わざわざ無から引っ張り上げてあげたんですよ! 感謝して!」
「そうなの?」
「そうです!」
「俺、無? に落ちたのか?」
「そうですよ! 声かけたのに普通に踏んで落ちるから!」
「すまん」
「すまんじゃないですよ、旅始まって早々にいなくなるとかありえない」
「あー、ごめん?」
「まったく。反省してください。それでこれから気をつけてくださいねぇ。無が侵食してるとこでは無が地面にあることもあるんです。足を取られたら落ちますよ」
きつねが俺の手を引っ張って立ち上がらせる。
よいしょ。
そして歩き出す。
「カジュアルに無が存在してるのは怖いな……」
「その通り、怖いんです! 無を舐めたらいけません。気を付けてね」
ぱ、と手を放すきつね。
「き・つ・ね、だな」
「は?」
「『き』を『つ』けて『ね』」
「そういう微妙なところに気付くのは君のいいところでもあり悪いところでもある」
「悪いところなら直さなければ」
「待って待って」
「なぜだ」
「両面なんですよ! いいところと悪いところは!」
「だが……」
「僕のこと信じられません?」
「いや、うん、信じたいけど……」
「僕じゃなく君自身に今まで色々あったから信じられない?」
「それもあるけど」
「両面を同時に把握することができない、そうですね」
「なぜわかる」
「聡いので。でも細かいところに気付けるというのは稀有ですよ。レアたぬき。あ、エリートたぬきでしたね」
「そのネタやめろ」
「はっはっは。すみませぇん」
「はあ……」
でも引っ張り上げてくれたということは、親切なんだな。と俺は思う。
無で何があったかとかは、まあ無なので思い出せるものでもないけど、一人で無になるよりはこうして謎のきつねとでも一緒にいられた方がいいのかな。
よくわからないけども。
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