第7話 きりがはれない

 あれから、きつねが隣でどうでもいい話を吹っ掛けてきて俺がそれに適当に答えるという形でだらだらと会話が続いている。

 信じろと言われたので信じようとはしているが備え持った警戒心はそう簡単にはなくならず、しかし適当に返せているのなら俺はこいつを信頼し始めているということなのだろうか。

 さっきから歩いてはいるが、なかなか霧が晴れない。

 不思議なことに、これだけ歩いても足が疲れるということはない。俺、体力ない方だと自負していたのだが。

 お腹も空かないし。

「なあ」

「なんですか」

「お前は腹減ってないのか」

「減ってませんよ」

 きつねもお腹が空かないのか?

「たぬきくんはお腹空いてるんですか」

「いや、空いてない……それが解せないんだよ」

「無の中では消耗が発生しないとかそういうやつじゃないですか?」

「そういうものか?」

「そうかもしれません」

「かもしれませんって」

 やっぱり適当に返せているな。いやここで気を逸らすのはよくない。俺はきつねに集中する。

「わかるはずがないじゃないですか、無は無なんだから」

「長命なんじゃないのか」

「年寄りが物知りだと思ったら大間違いですよ」

「だが、亀の甲より年の劫とも言うだろう」

「そんなこと言われた亀が迷惑してると思わないんですか? だいたいそれだと亀のお年寄りはどうなるんです」

「いや、別にどうもならないだろ。ものの例えってやつ」

「はあ」

 きつねはため息をついた。

「マジなご指摘やめてくださいます? 話が続かないでしょ。そこは適当に冗談を合わせるなりなんなりして会話を続けるんですよ」

「そうなのか」

「そうですよ……ってまあ別に、君に期待とかしてませんけどね。できなさそうだし」

「失礼な……できないとは思うけど……」

「素直でよろしい」

 きつねは頷く。

 なんか厄介な奴だけどたまに褒めるみたいなこと言うな?

「たぬきは素直でいいですね」

「全てのたぬきが素直なわけじゃないぞ」

「そうですが、あなたは特に素直です。レアたぬきですね。あ、エリートたぬきでしたか。間違えました」

 間違えたもクソもなくなんだか馬鹿にされている気がする。

「はっはっは」

 くるっと曲げた手を口の前に持って行って笑うきつね。

 きつねらしい動きだ。

 俺はなんだか感心してしまって、その様子をじっと見ていた。

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