第8話 くらいところで
歩いているうちに、周囲がだんだん暗くなってきた。
霧が出ているのでよくわからないが、霧が暗くなってきているのでつまり暗くなってきているのだろう。
「なんか、暗くなってきたよな」
「当然でしょう。ここ、無ですし」
「えっ」
「無の最期は暗闇なんですよ」
「ひょっとして早く離れないとやばいんじゃないか?」
「そうですね」
「ひょっとして進む方向間違ってた系の?」
「そうですね」
「知ってたんなら教えろよ」
「聞かれなかったので」
こいつ……
「お前はどうか知らないが、俺はまだ消えたくないんだよ。正しい方向はどっちだ」
「北ですね」
「北ってどっち? 上?」
「それは地図でしょ」
「霧ってて空見えないし、わからんだろどっちが北だか南だか」
「しょうがないたぬきくんですね」
「案内してくれるのか」
「あっちですよ」
きつねは指差し、立ち止まる。
「ん?」
「だから、あっち」
「案内してくれるんじゃないのか」
「これ、君の旅ですからね」
「えっ」
「先導するのは君ですよ」
「えーと……うん……わかった」
俺はきつねの指差す方向に歩み出す。
わかったけども。
「なんかよくわからん奴だな、お前」
「きつねですから」
ドヤァ、という効果音がついてきそうな顔をするきつね。
「はあ……」
こいつ表情豊かだな……俺はよく表情筋が死んでるって言われるけどこいつくらい表情豊かだったら苦労せずにすんだのだろうか。
「すごいでしょう。きつねを敬い崇めたまえ」
「何言い出してるのお前」
「きつねはすごい」
すごい自信だ。歩きながら、きつねは俺をじっと見ている。えーとこれ復唱しないといけないやつ?
「きつねはすごい……?」
「そうです」
「そうです?」
「そのことを常に心に刻んで生きていきたまえ」
「大げさでは?」
「獣生、多少大げさすぎるくらいがちょうどいいんですよ」
「そんなものかね……」
よくわからないが、長命のこいつが言うのならそうなのかもしれない。
一人で納得していると、ほんと素直ですねえという声が聞こえてきた。
ひょっとしてからかわれた系の?
「はっはっは」
こいつ……。
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