第6話 かるいやくそく

「ねえたぬきくん」

「……何だ」

「そういうね、気を遣うとか……僕にはいらないんですよ」

「なぜだ。気は遣わなければいけないものだろう」

「だって僕はきつねですよ? あなたはたぬき。同じヒトを化かす者同士じゃないですか」

「たぬきときつねは昔から敵対してきたと聞いたが」

「そういうの終わりって言ったでしょ。もうないんですよそんな決まりは。っていうか僕たちももう旅の仲間でしょ」

「そうだが……」

「安心してくださいよ、僕は君を嫌いになったりしない」

「な、」

 どうしてそのことを?

「会ったときからずっと僕の表情伺ってるでしょ。ぶっきらぼうなふりして僕のこと信頼できるか試そうとしてる。わかるんですよそういうの。僕だってきつねですからね」

 確かに、きつねは聡いというが。

「信頼できないでしょうね。僕はきつねですから。きつねはヒトを化かすもの。そして今の君はヒトだ」

「……お前だってヒトだろう」

「ヒトになってもきつねはきつね。たぬきはヒトになれるが、きつねはいつか剥がれるんですよ」

「そんなこと誰が決めたんだ」

「世界の理ですよ」

「それは壊れないものなのか」

「壊れませんねぇ」

「だが、お前がヒトになれなくたってお前はきつねだろう。それじゃ駄目なのか」

「わかってない、わかってませんよあなたは。だって……」

 きつねは黙り込む。

 ややあって、

「とにかく、僕に気を遣うのはよしてください。嫌われるかもとか疑うのもなし。嫌いませんから」

「だが……」

「気にしてしまう? まあそれでもいいでしょう。とにかく、僕が君を嫌うつもりはないってわかってくれたらいいんです」

「む……」

 そう言ったきつねの顔はどこか真剣で、初対面の人を食ったような雰囲気が消え失せていたものだから。

 俺は、うん、と言ってしまった。

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