第5話 おちるまえの
こういうとき、どうしていたかって?
「……」
喋りすぎてはいけない。俺の話を必要とするものは誰もいない。俺の声は相手を不快にする。俺の話は相手を退屈させる。俺の、
「急に静かになりましたねえ。いけませんよ」
「……」
「ヒト社会の話でもします?」
「ヒト社会の話?」
「そうです。君がいたヒト社会の話。色々あるでしょ。自慢とか愚痴とか」
「そういうことは……」
「あまり言ってはいけない?」
俺は頷く。
「いらないんですよそんな遠慮は。里はもう無になったでしょ。おしまいなんですよ、そんな古い因習や何やも。気にしない気にしない」
気にしないと言われても、俺はこれまでそれを規範として生きてきたのだ。規範は行動を縛るものだがいつしかそれは浸透し、思考までもを縛るようになる。規範は、
「たぬきくぅん」
「……何だ」
「やっぱりあなた考えるの好きでしょ」
「好きなのだろうか」
「さあ?」
「さあって……」
「ここでそうですたぬきくんは考えるのが好きなんですよそうなんですとか言って下手に縛っちゃっても悪いですし?」
「妙なところで遠慮するのな……会ったばかりの癖に」
「会ったばかりだからといって相手のことを尊重しちゃいけないなんて法はないでしょう」
「だが俺は……」
きつねは、あー、と言って黙った。
やはり気を悪くさせただろうか。
俺はきつねの様子を窺う。
いやそもそも会ったばかりの相手に対して俺はどうしてそこまで気を遣っているんだ?
それが俺の性質だからだ。
確かにそう。これまでずっとそうだった。
だがきつねは?
随分馴れ馴れしく話しかけてくるがこれが奴のデフォルトなのか?
いや、今はそんなことを気にしている場合ではない。
きつねはまだ黙っている。
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