第4話 えらんでそれから
いざついてこられるとなると、どうも慣れない。
これまでずっと一人でやってきたからか、隣に誰かいると調子が狂うというか。
「なあ」
「なんです」
「もっと離れて歩いてくれないか」
「やーですよ。見失っちゃうでしょ。霧濃いし」
「むう……」
近くにいられると、ずっと気にしてしまうのだが。
どうでもいい相手であっても側にいられると常に動向を気にしてしまうのは俺の悪い癖だ。一挙一頭足に注意を払い、気を悪くさせないようにと……
「たーぬーきーくーん」
「なんだよ……」
「何考えてるんですかぁ」
「別に何も」
「考えるの好きですか?」
「嫌いじゃないけど、」
「好きでもない?」
「うーん」
「ずっと考えてるのは好きっていうんですかね?」
「なんで疑問形なんだよ」
「だってぇ、黙ってたらつまんないですよ。おしゃべりしましょうよおしゃべり」
「会話はあんまり得意じゃない。っていうか、会ったばかりのお前と何話すんだよ。話題がないだろ」
「そこを捻出するのがコミュニケーションというやつですよ! はい、今日は霧が濃いですねー!」
「えっと……?」
「だめですよぉ。そこは、そうですねえって言って次の展開に繋げないと」
「そうですねえ」
「はー。10点。100点満点でですよ」
「ひっく! 俺コミュ力はそんな低くないつもりでいたけど」
「つもりでしょ。これだから最近の若いもんは」
「あんた俺と同じくらいの歳でしょ」
「きつねを外見で判断しちゃいけませんよ。きつねは長命」
「いやそりゃ昔のきつねは長命だったけどさ」
「今のきつねも長命かもしれないでしょ」
「断言しないんだ?」
「たぬきくぅん」
「何だよ」
「話がどんどん逸れてることに気付いてます?」
「いいだろ逸れたって」
「合格!」
「何が合格なんだよ」
「あなたできるじゃないですか」
「だから何が」
「何だと思います?」
「そうやって煙に巻くのよくないって習わなかったか?」
「きつねは煙に巻く生き物ですからね」
「そういやそうか」
「と、このように、話を展開させていくわけですよ。わかりましたか?」
「え」
そういや話が続いていた。いつもの会話じゃ重苦しい沈黙が落ちるのに。
「今日は調子がいいのかな……」
「はー。今日はそういうことにしといてあげましょう」
「そういうことって……」
と。俺は黙る。
こんなに喋って、相手の気を悪くさせてしまったかもしれない。
そういうとき、いつもどうしていたのだっけ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます