第50話 よほど手札に自信があるようだな?

「それって、常在戦場ってやつですか?」


 自分を敗軍の将なんて表現するリベル様の言葉を聞いて、真っ先に連想したのはそんな単語だった。

 常在戦場。それは、いつも戦場にいる気持ちで事にあたれ、という武士とかの心構え。

 歴史モノでしか見ないようなワードだけど、常に気を張って生きるリベル様には、ピッタリに思えた。


「そうだな。似たようなものだ」


 リベル様も手札から二枚ほどカードを捨てて、同じだけ引く。


「私は今でこそ宰相としてまつりごとに携わっているが、本職はしがない軍人にすぎない。勝てば官軍負ければ賊軍。敗者が勝者に従うのは自然の摂理と変わらない」


 言いながらリベル様が公開した手札はツーペア。対して私はワンペアしかないから、また負けちゃった……

 項垂れつつ自分のカードを公開しながら、最後の悪足掻きに指を三本立てて叫ぶ。


「さ、三回勝負! 先に二勝した方が勝ちだから!」

「……良いだろう」

「え、嘘マジ!? やった!!」


 絶対断られると思っていただけに、思わず声を上げて喜んでしまった。

 コホン、と誤魔化すように咳払いをしつつ、今度は私がカードをシャッフルして配る。


「それで話を戻しまして……敗者勝者って言いますけど、リベル様は誰と戦っているんですか? 戦争なら何年も前に終わってますよね」

いくさとは目に見えて起こっているものが、全てではない。そして私は、己が私欲のために邁進し続けていた」

「リベル様の私欲……」


 前のループで、燃え盛る王城を満足げに見下ろすリベル様を思い出した。

 

 ——この行いに意味はない。

 ——私の思想に正義はない。


 そう言ったのは、動機が私欲だからなのかもしれない。

 リベル様はこの国を滅ぼしたいと思っている。でも前回の反応から復讐って訳でもなさそうだし、一体何故?


「よほど手札に自信があるようだな?」


 皮肉混じりの声に、思考の沼に沈んだ意識を現実に引き戻される。


「あ……待って待って!」


 慌てて自分の手札を確認すると……

 Q、Q、Q、5、2。

 あれ? 既にスリーカードが完成している!?

 めちゃくちゃ強い役じゃないけど、全然勝てる可能性あるしここから強強つよつよのフルハウスかフォーカードだって狙える!?

 5と2を捨てて、二枚引いてっと……


「やった!! フルハウス!!!」


 私は得意げに三枚のQと二枚のJを机に叩きつけた。

 最強じゃないとはいえ、これ以上強い役はそうそう出ない。これはもう勝ち確と言っても過言じゃないはず!


「ほう、良い手札だ」

「でしょでしょ! 今回はこっちの勝ちで良いよね?!」

「まあ、待て。は初めから決めていたのだ。どのような形であれ、リベル・ディクターを止めた者に全て従うとな」

「ん?」


 一瞬なんの話か分からなくて思考が止まる。


「ままま、待って! え? 待って、それってつまり、誰かに止めて欲しかった——」

「言ったはずだ。敗者が勝者に従うと」


 そう言って、リベル様が手札を公開する。

 スペードの10、J、Q、K、A。

 最強の役——ロイヤルストレートフラッシュだった。


「えええぇえええぇ!? ここは私が勝つ流れでは!? てかリベル様ポーカー強すぎません!?」

「まさか、その程度で私に勝てるとでも?」


 冷たく言い捨てたリベル様がカードを片付け始める。これは完全にお開きモードだ。


「ううっ、もう私の質問には答えないって事ですよね……」


 結局何も聞き出せなかった。

 肩を落としてショボくれる私にリベル様は、


「そうだな。これから毎日、貴女が負けるまでゲームをしよう」

「え?」

「ゲームの内容は貴女が決めて良い。ゲームをした回数分、どんな質問にも答えてやろう」


 どんな気まぐれか、チャンスをくれるらしい。


「ありがとうございます! リベル様!!」


 書斎から立ち去ろうとするその後ろ姿に、深々とお辞儀をする。

 トランプは分が悪すぎるから遊戯室で他のゲームを見繕わないと!


 最悪のスタートを切ったこのループ。

 リベル様誘拐というまさかの展開に行き着いたけど、これはこの上ないチャンスだ!


 だから絶対に、可能性情報を掴んでみせる。

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