第49話 もう一回!

 マグカップに砕いたチョコと塩少々を入れて、溶けるまで加熱。

 牛乳を少しずつ加えて、バターを一欠片入れてもう一度加熱……


 そうやってつくったホットチョコレートを書斎に持って行き、


「うんまっ! なにこれ、天才!?」


 一口飲んでみたらあまりにもの美味しさに、思わず声が出てしまった。

 私が今までなんとなくで作ってた奴は、チョコが溶け切らないし牛乳ともうまく混ざらないしで微妙ーって思ってたのに、これは本当に美味しい!


「レヴィーアのレシピ凄くない? もう天才的に美味しいですよね? ね? リベル様!」


 笑顔で問いかけてやれば、ちょうど自身のマグに口をつけていたリベル様が「悪くない」と返してくれた。

 そう、私は今! レヴィーアの手紙に従い、トランプとホットチョコレートを手に、ゆっくりお話に来たのだ!


「ということで、ゲームしましょう! なんかいろいろあったけど、とりあえず私でも出来そうなトランプです! ババ抜きとかできますよ!」

「……構わないが」


 パタンと読んでいた本を閉じ、リベル様は私が机に置いたトランプを手に取った。

 そして黙々とシャッフルを始めたその手つきは、案外手慣れている。


「えっと、何もきかないんですか?」


 憎まれ口一つなく従うリベル様の姿が、なんだか解釈違いというか違和感というか……据わりが悪くて落ち着かない。

 いや、別に抵抗して欲しいわけじゃないんだけどさ。

 

「きかずとも、話す気でいるのだろう?」


 プロのディーラーのように弾きながらカードを配ったリベル様は、手札を整理し終えると、私に突き出して言った。


「ご希望通りゲームをしよう」


 *


「こっち……いや、やっぱりこっちかな……」


 私が言ったババ抜きがまさかの採用となり、始めたゲームも終盤に差し掛かっていた。

 遊びながら色々話そうと計画していたのに、気づけば熱中してしちゃっている。二人ババ抜きだから展開が早いってのもあるけど……

 私の手札が残り一枚、リベル様は二枚。まさに最後の戦いだった。


「右……左……」


 チラチラとリベル様の表情を確認するけど、ポーカーフェイスは全く崩れない。


「いつまで悩むつもりだ」

「いやだってどうせなら勝ちたいし……!」

「貴女が私に勝てるとでも?」


 煽りというより、私の負けを確信しているようなテンションで放たれた言葉。

 確かに他人の機微を読み取ることに長けたリベル様相手に、ババ抜きなんて無謀だったかもしれない。でも、ここで私がジョーカーさえ引かなければ……!


「こっち!!」


 意を決して左側にあったカードを掴み取る。

 描かれていた絵柄は——


「ジョーカーだ……」


 負けが確定した瞬間でもある。

 ここからだし抜けるなんて、さすがに思えなかった。


「うぅ、そんなぁ」


 完全に諦めた私を見て、リベル様がテーブルに散らばったカードを集めだす。


「もう一回! えっと、次はポーカーで! 細かい手順省いて、引き直し一回で出来た役を見せ合う簡易的なやつ!」

「分かった」


 黙々とトランプたちがシャッフルされ、一人五枚ずつ配られた。

 この世界のトランプゲームは、私が知るものと同じらしい。


 自分の手札を確認し、三枚捨てて山札から同じだけ取る。出来上がった役はワンペア。


 ……うん。勝つ事はとりあえず諦めて、そろそろ本題に入ろうかな。

 悩んでた事全部吹っ切れた今の私は最強だから、ちょっと踏み込んで聞いてやるんだから!


 ということで、


「なんでそんな従順なんですか? 全然ここから逃げ出さないし、文句も言わないなんて」

 

 これはここ数日で一番気になっていた事。

 リベル様が本気で逃げ出そうと思えば、ここにそれを止められる人なんていない。それなのに、今もこうして目の前でホットチョコレートを飲んで、トランプをしている。


 悶々とする私をリベル様は一瞥し、どうって事ないかのように言った。


「敗軍の将として、勝者に従うのは当然であろう?」

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