第44話 私は……いったい誰なんでしょうね
無事手を組むことが決定した私たちの話し合いは、次の段階に移行した。
「さて、貴女の要望を叶える為に、一つやってもらいたい事があるんだ」
ゆったりと足を組み替えて、ゼンは思いもよらない要望を告げる。
「宰相閣下を城外に連れ出して欲しい。この先起こる事に関われないよう、遠くへね」
「えっ!」
「そうしてくれたなら、俺たちもわざわざ追いかけるような真似はしないと約束しよう」
「そんな……」
リベル様を城外へ? しかも遠く!?
むりむりむりむり絶対無理!
城外に出たリベル様なんて見たことないよ! 生首以外で……!
「そんなに驚く事かい? 閣下が城内にいる限り我々の前に立ち塞がる。そうなったら、こちらとしても反撃せざるを得ないだろう?」
それは、確かに……
生き残れるから大人しくしてて! なんて言ったら鼻で笑われて終わりだよね。リベル様って自分の命には無頓着だし。
目的を達成するにはゼンの言う通り、離れてもらうしかない。
「でも、どうやって……」
「簡単な事さ。貴女が彼を
「……え」
後はもうトントン拍子に事は運んだ。
私はゼンの提案に乗って、婚約破棄の挨拶に来たリベル様を眠らせ、【Glacia】の力を借りて王都から離れたフローディア家所有の避暑地へと連れ去った。
私の態度から計画がバレないよう、記憶を封印までしてもらって。
………………
…………
……
「すす、すべて思い出しました……リベル様じゃなくて閣下……」
「それは重畳」
未だ優雅に朝食を堪能するリベル様の横で、私は地にめり込む勢いで土下座する。
正直今更ながら、このリベル様誘拐大作戦を実行してしまった事実に怖気付いていた。
だって今頃王城の方はきっと大騒ぎだし、こっちもこれからの予定は皆無だ。【Glacia】のサポートは誘拐するとこまでだから、リベル様に抵抗されたら引き止める術なんて私には無い。
「実に見事な手際だった。目の前で茶を淹れていたにも関わらず、毒を盛られるまで気づけなかった」
それはそうだ。ゼンに記憶を封じてもらったから、私自身毒を仕込んでいたなんて知らない。
「所作も良く研究している。茶の淹れ方、立ち姿等多少揺らぎはあったが、気落ちしているせいだと誤認できる範囲だった」
それはだって、前のループでリベル様に厳しく指導されたんだもの。だいぶ本家に近づけた自信はあるし、気落ちしていたのは本当だった。
「さて、貴女は誰だ?」
うん、やっぱりバレてるよね。私が本物じゃない事なんて。
私はレヴィーア・フローディアではない。自分の本当の名前は分からない。自分が誰だったかなんて分からない。
でも偽物って言われるのは、もう嫌だ……
「私は……いったい誰なんでしょうね」
なんて答えたら良いか分からなくて、私はただ曖昧に笑うしかなかった。
*
嗚呼そういえば、ゼンとの話し合いの最後に私はこんなことを聞いたっけ。
「でも良いんですか? 私を信用しても……」
初対面な私の話を聞いてくれたし、何かあるって察してもリベル様を見逃してくれたのは不思議だった。
私が未来を見たような反応をしても、あっさり受け入れていた。
そんな私の不安が伝わったのだろう。ゼンはとびきり優しい笑顔でこう言った。
「俺たちは人知が及ばない奇跡があることを、誰よりも知っているからね」
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