第32話 私はリベル・ディクターを死なせたくない

「……なんかリベル様とはいつもこんな問答してるなぁ」

「貴女とその様な事をした覚えはないが?」

「えっ! えっと、その……色々ありまして……」

「…………」


 つい吐いてしまった言葉に分かりやすく怪訝な顔をするリベル様。

 なんどもしたやりとりでも、今目の前にいるのはいつものリベル様じゃないんだと実感させられた。


「わ、私がリベル様を救いたいと思った理由は、先日地下牢で話した通りです!」


 慎重に相手の表情を見ながら私は言葉を紡ぎ出す。

 自白剤によって吐き出した言葉の数々は、どれも本心に違いはない。

 だけどあの時は勢いに任せだったし、オタクの早口語りだったから、今回はちゃんと落ち着いて告白する。


 吸って、吐いて……


「私はリベル様が好きです」


 よくよく考えてみたら、私は今までリベル様に何かしらの感情を向けられたことが無い。

 冷たくあしらわれてはいたけど、私が萌え語りを垂れ流した時でさえ嫌悪の表情を向けられることはなかった。

 だからなのかな? 言葉が詰まるほど動揺しちゃったのは。


「地下牢で話してしまった通り、リベル様のこと沢山知っています。今目の前にいる貴方が、その……リベル様の別人格だとかも……」


 リベル様とは別人として振る舞おうとしていたもう一人のリベル様は、苦虫を噛み潰したような顔をした。

 ごめんなさい、リベル様! 知らないふりしててもバレちゃう気がしたから、先に白状しちゃいました。


「私は簡単にだけどリベル様がやってきた事を知っていて、そしてこれからの未来を知っていて、このままだとリベル様が死んじゃう事を知っていて……でもリベル様は助かりたいなんて思っていない事も知っているんです」


 本当は良い人だから救われて欲しいとか、そういうのじゃない。

 ゲームで語られたリベル様の悪事は、相当数の人間に被害をもたらしていて、本人どころか周りの誰にも救われることなんて望まれていない。


「だからこれは本当にただのわがままです」


 もう一度、ゆっくりと息を吸って、吐き出す。


「私はリベル・ディクターを死なせたくない。だって、貴方が好きだから! 貴方の過去も未来も知っていて、沢山間違っているって思っていますけど、それでも! 死んで欲しくなんてないんです。

 悪い事をしたと思うなら、死ぬ以外の方法で償えば良いし、悪くないと思っているならそれはそれで私は良いです。

 私は私のエゴでリベル様を救いたいだけで、心の底から笑う貴方が見たいんです!」


 ちゃんと伝わるように、今度こそ届くようにと、自分が思った全てを言葉にした。

 途中から必死すぎてリベル様の反応を見るのも忘れていたけれど、


「はぁ……愚かだな」


 ため息をついたリベル様の表情は、笑っているとも怒っているともつかない、微妙なものだった。

 それでも、もう先程のような拒絶は感じられない。


 受け入れられた。


 そう感じてしまうのは、自惚れなのかな?


「え、えへへへへ……」

「まあ、良いだろう」


 固かった空気が緩み、夜風が庭園の草葉を揺らす。


「だが一つ、言わせてもらう。偽物が気安く私の名を呼ぶな」

「ゔっ!?」


 どうやら、心の距離が縮まるのはまだ先みたいだ……

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