第31話 ならば私に教えてくれ

 リベル・ディクター。

 それは乙女ゲーム——悪ノ王国〜破滅の時を君と〜に登場する攻略対象の一人。

 ルートを進めていくうちに『もう一人のリベル様』と出会う事になるのだけど、このもう一人のリベル様こそ、リベル様ルートを攻略する鍵になる人物。

 深夜の王城でしか会えないから、公爵令嬢としてお家に帰ってた今までのループでは縁なさすぎて、すっかり忘れていた!


「えっと、リベル……様?」


 なんて呼ぶべきか少し悩んで、そのまま呼んでみた。

 しかし私の方に向けられた青い瞳は、どことなく不服そうで、


「私は貴女の言う『リベル様』ではない」


 ピシャリと言い放たれ、そのまま背を向けられてしまった。

 なんと言うか、心の扉も閉ざされた音が聞こえた気がする……

 超重要人物なのに、コミュニケーションの第一歩で間違えてしまったみたい。


「ご、ごめんなさい……」


 素直に謝っても、もう一人のリベル様は振り向いてくれず、ただぼーっと夜空を見上げていた。

 電気が普及していないファンタジー世界の夜は私がいた現代ほど明るくないけど、魔法灯やランプに照らされているせいで見える星は多くない。


「あ、あの! なんてお呼びすれば良いですか!」


 このまま引き下がるわけにもいかないから、声をかけてみる。

 普通に無視される。

 ……おかしい。もう一人のリベル様は、ゲームだと普通に会話に応じてくれるし、話しやすいキャラだったはずなのになんで……

 これがヒロインとモブの違いってやつ!?


「ここからですと、あまり星が見えないですね……」


 一歩、近くに寄ってみる。

 特に反応は示されない。


「もしかして、流れ星が見えたりするんですか?」


 どこまで許されるんだろうと、一歩、また一歩と近づいていく。

 あと少しで手が届くって距離まで行った時、ついに静止の声が掛かった。


「貴女の事は『リベル』から聞いている」


 ようやく向けられた青い瞳は、どこか焦点があっていない。


「レヴィーア・フローディアを騙る偽者だと」

「えっ、あ……ははっ……」


嫌悪を隠さない表情に、私の心臓はキュッと締め付けられた。

 リベル様にはなんて言われようとも興奮するだけだったのに、この人に言われると何故か堪える。


「ごめんなさい……それでも私は、リベル様を助けたいから……」


 左分けの前髪で右目を隠し、金に近いオレンジの瞳を見せていたリベル様に対し、目の前の人物は左目を隠して青い右目を見せていた。

 いつも自信と余裕にあふれた表情を浮かべるリベル様と違って、この人は分かりやすく感情を表してくれる。


 全く別人にしか見えない二人だが、私はゲームのおかげで知っていた。

 この人がリベル様の別人格でしかない事を。


「ならば私に教えてくれ」


 人格は違えど、二人のリベル様は記憶を共有している。

 なら今私に向けている嫌悪こそ、リベル様の本当の気持ちなのかもしれない。


「貴女は何故なにゆえあの大罪人に救われて欲しい? まさか、リベル・ディクターの行いが正しいとは思っていまい」


 リベル様を助けたい理由? そんなのリベル様が大好きだからに決まっている!

 だけど冷たいリベル様の表情を見て、私は咄嗟に言葉が出てこなかった――

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