第28話 この一瞬でいろんな事起こり過ぎじゃない!?

 息も絶え絶えに走り抜けた結果、私たちはあっさりサーカステント前にたどり着いた。


「は、はぁ……ひぃ、げほっ……はぁ……」


 さいきんメイド業で少し鍛えられたとはいえ、令嬢の身体に全力疾走はやっぱり堪える。

 それと比べ、陛下はビックリするほどピンピンしてた。


「お前さ、いきなりなんなの!? 僕疲れたって言ったよね!」

「はぁ、はぁ……ぜ、ぜんぜん元気……はぁ、じゃないですか……」

「勝手に走り出したくせになんで僕より疲れてんのさ」

「ごもっ、とも……」


 あまりにも無様な私の姿に溜飲が下がったのか、陛下はこれ以上文句を言わず、キョロキョロとリズきゅんを探し始めた。

 私も早く癒しが欲しいから探すのを手伝おうと思ったけど、その前に。


「良かった……」


 誰も追いかけて来ていないのを確認して、ほっと一息。

 まさかGlaciaのメンバーを見ただけであんなに動揺しちゃうなんて思わなかった。

 リベル様の言葉を思い出す。


『緊張、高揚、罪悪感……常と異なる事をすれば、これらの感情は無意識に所作へと現れる』


 その通りだった。

 ゲーム知識があるせいで、これからやる内容を考えたらやましい事しかない!

 だって、だってこれから調査しに行くサーカスはGlaciaが隠れ蓑にやっているものだって既に知っちゃっているんだからね!

 そりゃあ平静を装う事もできず、逃げ出しちゃうって……


「あ、リズ!!」

「へい……じゃなくて、クルエル!」


 ちょっと考え事をしている間に、陛下がリズきゅんを見つけたようだ。

 笑顔で駆け寄ってくるリズきゅんを見ると、その腕の中には色とりどりの花や果物、お菓子などが抱えられていて——


「え、リズちゃん。どうしたの、それ」

「ちょっと困っている人がいたから声をかけたら、色々あって……」


 私たちは並んでサーカスへと向かいながらリズきゅんのお話を聞いた。

 はぐれていたのはそんな長時間じゃないはずなのに、さすがはヒロインと言うべきか……


「おじいちゃんが立ち往生してるのを見かけちゃってね、手助けしていたらすごーく綺麗な占い師さんに出会って、それから背の高いお兄さんから美味しいお茶を貰って、そこまでは良かったんだけど小さな女の子が道端で泣いていて——」

「この一瞬でいろんな事起こり過ぎじゃない!?」


 でもリズきゅんの天使らしいエピソードは私の心をほっこりさせた。


「ふん、僕を放ってそんな奴らを……」


 まあクソガキ陛下は始終不満そうにしてたけど。

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