第26話 頭がおかしいと幻聴も聞こえるようになるの?

「……クローバーサーカス?」

「そうなの! リズちゃん、一緒に行かない?」


 クソガキ王の侍女になって早くも一週間が過ぎたある日の昼下がり。

 陛下に暴言を吐いた件で無事リベル様に呼び出しをくらった私だけど、新たな任務を携えて帰ってきたのである!

 そう! それがこのサーカス団の視察。


「各地を旅するクローバーサーカス、近日王都へ!? ジャグリング、綱渡り、空中ブランコ、猛獣たちの曲芸……極められし伝統芸に水魔法が織りなす幻想的な光景を添えて皆様を夢の世界へ導きましょう……わぁ、すごい!」


 私が渡したサーカスのチラシを読み上げたリズきゅんが目を輝かせる。


「リズちゃんなら絶対気にいると思うんだよね! だからさ、次の休みとかにどうかな一緒に」


 実はこのサーカスに行くというイベントは、ゲームの共通ルートで発生する必須イベントだったりする。 

 リズきゅんが侍女仲間からサーカスの話を聞いて、興味本位で見に行く……という流れ。つまり正史!

 私も今や侍女仲間だから、ここにきてついにゲームのシナリオに従った行動をしようとしているわけだ。


「凄い……行きたい。行ってみたい! クルエルはどう?」


 おっと、ここで誘われるクソガキ陛下。

 これもストーリー通りの展開だけど、確か外の世界に興味がない陛下は断るんだよね……

 リズきゅんの誘いを蹴るなんてけしからん!!


「サーカスって何?」

「えーと、人や動物がすごい芸をして見せてくれるところ?」

「なにそれ、面白いの?」


 ……うん。今のはちょっと面白くなさそうな説明だねリズきゅん。

 案の定、サーカスのチラシを見ても陛下は興味なさそうだ。


「これって、お城の外?」

「そうだね。城下町を抜けた先だからちょっと遠いかも……」

「ふーん」


 リズきゅんに質問してみたものの、やっぱり気乗りしないなと陛下の顔が言っている。

 そうそう良いのよ、陛下は来なくて! 私とリズきゅんでラブラブデートするんだから、むしろ来られたら邪魔だし?


「じゃあ陛下は興味なさそうだし、二人で行こうよリズちゃん!」

「は? 僕も行くけど」


 なんですと?


「陛下は興味ないと」

「頭がおかしいと幻聴も聞こえるようになるの? 誰もそんな事言ってないよね」


 顔が言ってたんだよ!! って怒鳴りつけたくなったけど、我慢我慢。大暴れしてリベル様に叱られたばかりじゃないレヴィーア……ダメよ、ステイステイ……


「申し訳ございません。まさか陛下のような尊きお方が下々の娯楽に関心を持たれるとは思いもよらず」

「ふんっ」


 渾身の皮肉は不発に終わり、不本意ながら私とリズちゃんで陛下を連れてお忍びサーカスデートへ行く事が決まったのであった!

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