第25話 何見てんだよブス

「本日付けで陛下専属の侍女に任命されました。レヴィと申します。よろしくお願い致します」


 リベル様仕込みの美しい礼で、クソガキ陛下とリズきゅんに挨拶をする。

 そう! 私はリベル様の厳しい侍女入門レッスンを見事卒業し、ついに仕事に就けるのである!


 もうリベル様のお側に侍れないのは寂しいけど! これから毎日クソガキの顔を見なきゃいけないのは面倒いけど!! 


 すぅううううぅぅーーはああぁあぁぁぁ……


 リズきゅん久しぶり今日も可愛いねはぁはぁ前回あれから会えなくて寂しいからオジサンから会いに来ちゃったあぐふふなんだろうリズきゅんが同じ空間にいるだけで空気が甘く感じるしどんなストレスもリフレッシュできちゃうよ!


「レヴィさん。わたしはリズ・ガーネットです。よろしくお願いします!」


 ぎゃんかわ!!

 あああっ無理! リズきゅんが私を見ている!! こんなの心拍数爆上がりだよ……美少女! 大天使!


「リズ先輩! 私の事は気軽にレヴィと呼んでください! 新人ですし、敬語もいりません」

「……うん! わたしもリズでいいよ。歳下だし敬語もいらないから」

「分かった!」


 愛するリズきゅんと挨拶を交わしているその間、陛下はと言えば、ツンとそっぽを向いたままガン無視である。

 へーそうですか。そんな態度とるんですか。

 リベル様に無視されるのはご褒美だけど、クソガキにされるとイラつくんだよね。

 だから、


 挨拶と一緒に差し出されたリズきゅんの手を、私は両手で包みこむ。


「早速ですが……」

「ん?」


 きょとんとした夕焼け色の瞳が私を見つめる。


「好きです! 付き合ってください!!」

「出てって!!」


 間髪入れずに駆け寄った陛下が、私の手を引き離した。



 …………

 ……



「お前なんかいらない。帰って」

「致しません」

「なんでお前ごときが僕に逆らうんだよ! 帰れってば!!」

「致しません」

「うぅぅうううぅぅぅ、帰れ帰れ帰れ帰れ!!」

「致しません。致しません。致しません」


 すっかりヘソを曲げてしまった陛下は、リズきゅんにしがみつきながら必死に私へ威嚇をしていた。さながらお気に入りのおもちゃを横取りされそうな駄々っ子の様に。


 おいコラお前その姿だから許されるかもしれないけど、女の子に抱きつくとかセクハラだかんな?


「陛下、わたしはどこにも行きませんから大丈夫ですよ?」

「僕のことは名前で呼んでって言ったよね!」

「えっ、そ、その……ク、クルエル……」

「うん!」


 この国で一番偉い (笑)人物を名前で呼ぶのは恐れ多いのかな? 気まずそうに目を泳がせながら、小声で名前を口にするリズきゅん可愛すぎ!

 そしてクソガキは嬉しそうにするなー!


「クルエルーリズちゃんから離れてくださーい」

「お前は呼ぶなっ!!」

 

 クワっ! って効果音がつきそうなリアクションが返ってくる。

 ……なんだろう、この突き回したくなる様な気持ちは。


「レヴィちゃん……!」


 真っ青になったリズきゅんが私の名前を呼ぶ。


「ごめんね、リズちゃん。騒がしくしちゃって」

「そ、そうじゃなくて!」


 分かっている。暴君で有名な王様に向かって、ふざけた態度を取った事に慌てているんだよね。

 私は獣のように威嚇する陛下に目を向ける。

 今この子が一言告げるだけで、私はあっさり投獄ないし処刑されるんだろうな。


「何見てんだよブス」


 顔面凹ませたろか??

 謝ろうって思った気持ちも一瞬で霧散した。


「誰が陛下なんて見ますか! 私が目に写したいのは可愛い可愛いリズきゅんだけです!!」

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