第15話 お前なんか死んじゃえっ!
「なんだ、全然元気じゃん」
どう見ても小学生くらいにしか見えない少年——クルエル・K・レインが、リベル様を見てそう言った。
はあ? 何言ってんだこのクソガキ! どう見ても弱ってるだろうがあぁん!?
「陛下も息災で何よりです」
「当たり前じゃん。僕はリズと楽しくやってるもんね!」
「左様でございますか」
二人の間に吹き荒れるブリザード。そして当然のように空気な私……うっ、いやこの際私の事なんてどうでも良いか……
とにかく、たったこれだけの会話で二人の仲が悪い事は良く分かった。
「しかも口煩い誰かさんがいない訳だし? 僕もこうして自由に動けて最高だよ!」
「左様でございますか」
ゲーム中ではリベル様に言われて変装していた王様は今、彼の美しい銀髪と金の瞳を惜しげもなく晒している。この二つの色は王家にのみ現れるものだから、誰が見てもこの少年が王族である事が分かってしまうわけだ。
しかも現在王族で生きているのは現国王のみ。
圧政により民の恨みを買っているこの国で、王族であることを隠すのはそれなりの意味があるのに、それをこのガキは理解していないらしい。
「ところで陛下。自由を謳歌されるのは大変結構ですが、国務は
「は?」
「西部リフェルテ地方にて暴動の兆しがございますね。派遣する騎士団の手配はお済みですか? 北東ソデイアからは税金軽減の嘆願書が送られてきた様子。返答は既にお決まりですか? それから城下にて——」
「デタラメ言うな!!」
王様の怒声が、つらつらと語るリベル様を止めた。どこか焦っているように見えるのは、これらの問題を何一つ知らないからだろうなと私は勝手に想像する。
「そんなこと言えば出してあげるとでも思ったの? 出たかったら素直にこの僕に『出してください』って言えよ!」
「はっ、まさか」
癇癪を起こした子どものように騒ぎ立てる王様に対し、リベル様は冷ややかに笑った。
「私はこの場所で十分楽しんでいますよ」
「っーーーー!!」
「あまり激情されてはお体に障りますよ」
「うるさいうるさいうるさいうるさいっ!! お前なんかいなくたってどうにでもなるんだよ! ていうかお前が悪くしたんだろ!? お前のせいだ! 全部お前がお前がお前がっっ!」
地団駄を踏みながら騒ぎ立てる王様。
でも、待って。今なんて言った?
「私が何をしたと?」
「殺した! みんな殺した! お前のせいなんだ!! お前がいなければ上手くいくんだ。お前さえいなければ、いなければ、きっと……」
「なんの事だか分かりませんね、陛下」
半泣きになりながら俯く子ども。その愛らしい見た目もあって、とても哀れに見える。
だけど、何故そんなことを彼は知ってるの?
何度でも言うけど今はまだ物語の序盤。起承転結で言う起の部分。まだ誰も誰のせいで何が起きてこれからどうなるのか分からない段階。
それなのに、どうして……
まさか私以外にも、私と同じような存在がいる? それでこのガキに色々吹き込んだ?
一瞬脳裏をよぎったのは、悪役令嬢に転生したと思ったらヒロインも転生者だったパターン。
それだと私の愛しのリズきゅんも転生者って事になるから、それはちょっと、受け入れ難いというか……
「……じゃえ」
「ん?」
私を思考状態から引き戻したのは、聞き捨てならない王様の一言だった。
「お前なんか死んじゃえっ!!」
「はあ!? リベル様に何言うのよクソガキっ!!」
恐れ多くも王様に向かってそんな事を言ってしまったのは、完全に条件反射だった。
いやごめんて、反省も後悔もしてないけどそんなに睨まないで!
「ふんっ」
最後にもう一度リベル様を一睨みして、王様は走り去った。
これでリベル様とお話しできると思ったのも束の間——
「貴様も帰れ」
「えっ」
「聞こえなかったのか? 貴様も帰れと言っている」
素気無くそう言われてしまった。
なんとしてでもリベル様に何か口にしていただこうと決意していた私だけど、それでも頷いてしまったのはリベル様が見せた態度に余裕を感じたからだろう。
「……そうですよね。王様に凸されて疲れちゃいましたよね……でも明日また来ますから!」
今度は何も返答をせず、目を瞑ったリベル様を見て私もとぼとぼと地下牢を後にする。
だけどこの選択を私はすぐに後悔した。
………………
…………
……
「え、いま……なんて……?」
「閣下がお亡くなりになりました」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます