第14話 『婚約者』だからか?
「あ〜リズきゅん可愛かったな! 心がぴょんぴょんするんじゃあぁ」
リズきゅんの事を思い出しながら、帰宅した私はベッドの上でジタバタしていた。
ヒロインことリズ・ガーネットは、攻略対象だけではなく私たちプレイヤーにとっても癒しの存在だった。
乙女ゲームには珍しく名前が固定のヒロインで、侍女長であるマリア・ガーネットの養女である。性格は明るくて可愛くて前向きで、圧倒的光属性! そんな彼女は、この鬱すぎるゲームの世界では本当に光だった。
各キャラの悩みや心の闇に寄り添うリズきゅん。何回もキャラ達が死ぬのを見せつけられて鬱るプレイヤーを癒すリズきゅん。本当にバランスが良いというか、リズきゅんあっての悪ノ王国だった。
しかもたまには仕事をサボってみたり、しっかりと自分でも悩む事があったり、あるキャラに対しては塩対応していたり……そんなちょっとしたところに、人間らしさがあってただの良い子では終わらせない! そんな身近に感じさせてくれるキャラクターだ。
このゲームをプレイしてリズきゅんが嫌いな人は、余程のひねくれだと思う!
そんなリズきゅんとお知り合いになれた今日。もしかしたらこのまま友達にまでなれるかもしれない! って思うと興奮して夜も眠れなくなりそう!
王様に会うために近づいた私だけど、あんなクソガキより大好きなリズきゅんと友達になれるかもしれないって事実にテンション上がっちゃうのは仕方ないよね?
でもそんな期待とは裏腹に、
「今日もリズきゅんがどこにもいないーなんでぇ!?」
侍女の格好を借りて城内をうろつくこと三日。一向にリズきゅんと出会える日は来なかった。王様の方は言わずもがな。
これは長期戦かな? と覚悟を決めようとしたところ、またまた衝撃のニュースが私に伝えられた。
「フローディア嬢! その格好はいったい……いえ、そんな事より大変です! 閣下が絶食されていて、このままでは……」
▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽
「リベル様!!」
看守さんの話を聞いて、私はそのまま地下牢へと駆けつけた。なんでも投獄された日以降、食事どころか飲水にさえ手をつけていないらしい。
相変わらず立派な椅子に、目を閉じたまま腰掛けていたリベル様は私の声に反応して、気だるそうにまぶたを上げた。
「……騒々しいな」
初日と同じように返してきた言葉だけど、その声は掠れていた。当然だ三日も何も飲んでいなんだから喉だってとっくに枯れてしまっている。
人間は断食してもそれなりに生きていけるけど、水はそうもいかない。下手すれば四、五日で死んでしまうと言うのになんで……
「何も口にしていないって聞きました! なんでそんな事するんですか……このままだとリベル様は……」
「それが貴様になんの関係がある」
「それは、その……心配で……」
「『婚約者』だからか?」
言外に偽物のくせにとなじられて、私は言葉を詰まらせた。
そういえば私って、リベル様にとっては婚約者のフリをする正体不明の人間でしかないんだよね……深く考えていなかったとはいえ、リベル様を騙そうとしたわけだし、好感度は底辺。こんな事を言われるのも当然だよね……
リベル様のために動けば許されると、いつの間にか思っていたみたい。
「すみません……」
「貴様の謝罪になど興味はない」
「じゃあ私のことはどうでも良いんで、せめてお水だけでも飲んでください!」
「必要ないな」
「なんで!」
とりつく島もないリベル様の態度に、焦りが募っていく。鉄格子さえなければきっと掴みかかっていた。というより無理矢理水を飲ませていた!
「陛下が私を不要だと仰ったのだ。なら、それで良いではないか」
「何を言ってるの?」
「リベル・ディクターなど居なくなって仕舞えば良いという事だ」
「は……」
つまりそれってあのクソガキへの当てつけで死ぬって事? いやいや、そんな、そんなバカな事ってないでしょ!?
「へぇ,それは楽しみだね」
突然第三者の声が、この空間に響いた。
慌ててそちらを向くと、銀色の短髪と金色の瞳がこの薄暗い地下牢で輝きを放っている。
「ななな、なんでここに……?!」
「暇だからさ、様子を見にきてあげたよ」
「光栄でございます」
予想外の人物に驚く私とは違って、リベル様は最初から知っていたかのようにゆったりと構えて言った。
「お待ちしておりました。陛下」
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