第13話 心のモブおじさんがハッスルしてしまった

 侍女長の言葉に従い使用人寮へ行った私は、ヒロインちゃんを待つために近くの茂みに隠れた。

 堂々と待てば良いじゃんと思うかもしれないけど、ここはやっぱりちょっとした後ろめたさがあるし、通りすがりの人に仕事とか命じられたら困るからという理由もある。


 良い年になるとしゃがむと言う動作すら秒で辛くなってくるもので……

 プルプルしだす足に吹き出す汗、頑張って! もう少し、後少しだから……! と自分にエールを送る私の視界に、金色のふわふわしたツインテールが通り過ぎ、


「リズきゅん!」


 なんの思考も経ずにヒロインちゃんの名前を叫んでいた。

 

「きゃっ! だ、誰ですか?」


 ぐへへへへ、怯えるリズきゅんも可愛いねぇ〜はぁはぁ、こっちおいでぇ〜怪しい者じゃないよぉ〜

 そのフワフワのツインテ最高だねぇ〜でゅふふっ、結構癖っ毛だけど櫛を通すの大変じゃないかなぁ? 通してあげたいなぁ〜その夕焼け色の瞳も素敵だよねぇ? 食べちゃいたいぃ〜ア"ア"ァ"ァ"ア"〜! 


 はっ! いけないけない。心のモブおじさんがハッスルしてしまった。


 いきなり知らない人に名前を呼ばれたら怖いよね、ごめんね……ちゃんと仲良くなろうと思っているから、しっかりしなくちゃいけないのにね……


「ごめんなさい! 私新入社員じゃなくて、新人メイドのレヴィです! リズ先輩のお噂はかねがね……あっ、よろしくお願いします!」

「わたしはリズ・ガーネットです。よろしくお願いします、レヴィさん!」


 リズきゅんは私の正体 (嘘) を聞いて安心したのか、ホッと息をついて自己紹介を返してくれた。そのちょっと安心した時の表情といったらもう天使すぎる! 可愛い! プライスレス!


「さっきは驚かせちゃって本当にごめんなさい。実は、ここで待っていたらリズ先輩に会えると聞いて……」

「わたしに?」

「はい! まだお若いのに王族の専属侍女になったとか」

「あっ、それは……」


 私の言葉に、彼女の表情が曇ってしまう。


「わたしの実力じゃなくて、ただ運が良かったと言いますか、えっと……」

「良いじゃないですか! 運も実力の内って言いますし、何よりあの王様に気に入られたのはリズ先輩の人徳あっての事ですよ!」

「……ありがとうございます、レヴィさん」


 花が咲くようにと表現しても過言じゃない程可愛い笑顔を、リズきゅんが浮かべてくれた。


 あぁああぁあああああ〜尊いんじゃ〜! 今すぐ抱きしめてよしよしペロペロしたい!! 

 ごめんねぇ、本当は私リズきゅんが他の侍女さんに嫉妬で嫌味言われて落ち込んでるの知ってたのー! そこに付け入る形で好感度をあげようとしている汚い大人なのー!!


「私の事は気軽にレヴィと呼んでください! 新人ですし、敬語もいらないですよ」

「うん! わたしもリズでいいよ。歳下だし敬語もいらないよ!」

「おっけー! ありがとうリズきゅん」

「きゅ?」

「間違えた、リズちゃん!」


 私今すごく転生者っぽい事している気分! ゲームの知識から登場人物の好感度を上げるっていうのが醍醐味だよね? リベル様の前でことごとく失敗しているけど、これがあるべき姿だよね?!


「レヴィちゃん、わたしそろそろ行かなきゃ」

「うん! 呼び止めちゃってごめんね。また会えるかな?」


 あばばばば! ちゃんって呼ばれた! レヴィちゃんって呼ばれた! 嘘!? 心臓止まってない? 大丈夫? 私生きてる!?


「……そう、だね。うん! 離宮から出た時とか、会えると思うよ」


 離宮に行ったら外に出られないんじゃないかって不安なんだね。

 でも大丈夫だよリズきゅん。

 リズきゅんはヒロインだから、案外普通に出歩けるんだよ。その後ろをあのクソガキ王がついて回ったりもするんだよ。

 だから……


「ありがとうリズちゃん! 楽しみにしてるね!」


 次会う時はもしかしたら私が探している王様も一緒かもしれない、なんて下心を持つ私を許して欲しいな。



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近況ノートにイラストを載せられるようになったらしいので、リベル様の設定画を載せてみました!

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