第11話 そうだ。侍女になろう!
王様に直談判する! なんて意気揚々と地下牢を飛び出したのは良いけれど、正直全くの無策である。
執務室に行けば必ずいるリベル様と違って、王様は常に城内を遊び歩いて捕まらないし、そもそも身分的に会える相手でもない。
ひとまずどこかに座って、情報整理のためにゲームのシナリオでも思い出そうと考えた私は、目についた
美しい花々が彩る庭園の一角。そこに四脚の椅子と程よいサイズの丸テーブルがあるガゼボ。
私的なお茶会を開くにはピッタリのロケーションと言えるこの場所だが、王族が陛下だけになってしまった今はしばらく使われていないことだろう。王城から少し離れているせいもあって、辺りに人の気配がない。
「はあぁぁ……」
リベル様には秒でバレたけど、人目のあるところでは令嬢らしく振る舞おうと肩肘張っていた私は、この機にダラシなくテーブルに突っ伏する。
大理石のテーブル、頬に当たって冷んやり、気持ち良い……はぁ…………
こうやってダラダラするのはいつぶりだろう? 思えばこの世界で目覚めてから怒涛の毎日を過ごしていた。
リベル様の執務室に
いや〜充実だわ。推し活最高!!
って楽しめる世界観だったら良かったんだけどなぁ。
でも残念ながらここは、私がやっていた攻略対象がだいたい死ぬ鬱系乙女ゲーム『悪ノ王国〜破滅の時を君と〜』の世界。
世界観としては剣と魔法のファンタジー系で、魔法は精霊によって与えられる精霊石を手にした者だけが行使できる奇跡。
魔法を使える人間は魔法使いもしくは精霊師と呼ばれ、石は血筋とか関係なく精霊の好みと気まぐれによって配られるからとても希少な存在という扱いだった。
希少というだけあって、私の知る中で魔法を使えるのはリベル様と革命軍のリーダーであるゼンの二人のみ。
魔眼とか魔声とか例外もいるけど今は関係ないから置いておこう。それから魔法についても語るときっと長くなるし、私もゲームの知識しかないから割愛しよう。とにかくなんか分類があった、うん。
「あ"あ"ぁ"ぁ"あ"ー!! リベル様 さっきキメたが またキメたい……」
はい、ごめんなさい。現実逃避しました。
魔法とか今どうでも良いんだよね、分かっている。本題は王様なんだよ、分かっている……分かっているけど!
「私子どもに興味ないから王様ルートやってないのぉ!」
細かく言うとゲームの一週目が強制王様ルートだけど、あれはプロローグみたいなものだから情報は皆無だった。
明るくてお転婆なヒロインちゃん (十六歳)はお城全体の掃除などが仕事のメイドさん。ある日命じられた広すぎる中庭の掃除に飽きてサボっていた時、見知らぬ男の子に出会う。そしてその子に「サボってたのバラされたくなかったら遊んでよ」と脅された結果、一緒に遊んでしまう。
次の日、暴君で有名な王様に呼び出されて震え上がるヒロインちゃんだけど、そこにいたのは昨日遊んだ男の子だった。
可哀想にヒロインちゃん。まさか自分が遊んだ相手が国王だったなんて夢にも思わなかっただろうね。普段は離宮に引きこもり、限られた人間しか王様の顔を知らない上に、ヒロインちゃんと会った時は変装もしていた。
「今日から僕の専属メイドね!」
そんなたったの一言で、ヒロインちゃんは住まいを離宮に移され、今まで一緒に働いていたメイド仲間たちとも引き離されてしまう。
……なんかもうこの時点で王様に良いところなんてないんだけど、この後も良いところは特になかった。
専属メイドは名ばかりで、ヒロインちゃんの仕事は王様の遊び相手。毎日遊んで、遊んで、遊んで……革命の日、なす術もなく王城は燃え盛った。
迫り来る革命軍に対して、王様の手を引いて逃げるヒロインちゃん。まず騎士団に所属していたヒロインちゃんの兄が時間稼ぎに残った。次に十年以上王様のお世話をしていた侍女が、王族に扮して囮役を買って出た。
——無事に逃げ延びたらあの泉の
しかしいくら待てども、逃げ切ったヒロインちゃんと王様の元にやってくる人はいなかった。
「号外! 号外! 暴虐の王ついに捕まる!? 公開処刑を街の広場にて執行。日時は——」
風が衝撃のニュースを運んでくる。
初回の私のようにがむしゃらに走り出す王様を、ヒロインちゃんが慌てて追いかける。なんとかたどり着いた広場で見たものは、王族として捕まった侍女の処刑シーンと……
「い、や、ぁっ」
絶望する少年王の顔だった。
(完)
って完じゃないわっ!! 今思い出しても衝撃のラストじゃい! 初っ端からなんてものを見せるんだこのゲームは! 作者出てこいっ!! って思わず叫んだよね。
救いが無さすぎる強制バッドエンド。
プロローグのような立ち位置のストーリーだからキャラの過去とか謎とか一切解明されず、リベル様やゼンとはほぼ関わることすらなかった。
このルートを思い出したところで私が手に入れた情報は、王様の容姿と普段は離宮にいる事とよく城内を遊び歩いているという事だけで、簡単に会えそうにない事実は変わらない。
あ"ぁ、一体どうすれば!
「あの……もし体調が優れないのでしたら、医務室へお連れいたしましょうか?」
おっと、どうやら長居しすぎたようだ。
お城の侍女さんが未だテーブルに突っ伏している私を心配して、声をかけてきた。
「すみません、すぐに退きます。全然元気なんで、だいじょ——」
いい加減起きあがろうと顔を上げて侍女さんと目が合った瞬間、ふとアイデアが頭の中に降りてくる。
そうだ。
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