第10話 一つ貴様に教えてやろう

「さて、貴様は誰だ」


 まさかこの質問をまた聞く事になるなんて思わなかった。しかもこんな短期間で!

 どうしようどうしよう。『気のせいですわ』なんて言って通じる相手じゃないし、だからと言って白状する? 『体はレヴィーアですけど魂は別人です☆』って? 馬鹿にしてんのかってならないこれ!?


 ……そもそも、バレてしまった理由ってなんだろう?


 やっぱり口調とかその辺なのかな。メイや周りの使用人には何も言われないから、なんとなくできちゃったけど私は本物のレヴィーアのことが分からないわけだし……


 いや、今は理由じゃなくて言い訳! 言い訳を考えなきゃ。えっと、えっと……!


「ふんっ、答えられないか?」

「わ、わたし、私……」

「そうだな、一つ貴様に教えてやろう」


 バレた理由が気になったのも、必死に言い訳を考えていたのも、全てお見通しだったらしい。

 何も答えられない私をなじるでもなく、リベル様は笑みを深める。


「レヴィーア・フローディアは私を『リベル様』などとは呼ばない」

「……えっ」


 待って、待って!! つまり第一声からバレてたって事——!?

 そ、そんな……そんな事って……だって昨日の時点でバレてるのに泳がされてたって訳だよね?

 うわぁあぁああぁああああ! 私、そうとも知らずに必死にレヴィーア貴族っぽく振る舞おうとしてたよ!! やだ恥ずかしい!


「私も甘く見られたものだな? 今まで私の命を狙い、身近な者に化ける刺客は多々いたが、貴様ほどの間抜けは初めてだ。化けるならせめて最低限の下調べをしたまえ」


 下調べって本人もういないし……

 それに、そっか。少しでも違和感を覚えたら偽物だと断言できるのは、前にリベル様はそうやって命を狙われた事があったからなんだ。


 見た目が同じでもそれは別人かもしれない。

 リベル様は常に出会う人全員を警戒して生きているの?

 それでいつもピリピリしているのかもしれない。

 だって投獄された今は明らかに上機嫌だし口数も多くなっている。それは檻が自分を守ってくれると思っているのか、どうにでもなれと思っているのか、リベル様は——


「どうした、かかってきたまえよ。私が逃げも隠れも出来ぬ今、貴様ら暗殺者にとっては絶好の機会であろう?」


 私を刺客だと思っていながら、挑発の言葉を投げかけた。


 ゲームをプレイしてた時から思っていたけど、リベル様はあらゆる安全策を講じながらも、自身の命には無頓着だ。だからこそ、墓地で見た処刑シーンでは黙って刃を受け入れたんだろう。

 でも……


「リベル様、私はリベル様の命を狙ってなんかいません。むしろお助けしたいと言うか……死んで欲しくない、私はリベル様に生きていて欲しいんです!」

「理解できんな。助ける? 貴様が?」

「そうです! 確かに私はレヴィーアではないです。けどこの気持ちは本物です!」

「……何を言い出すのかと思えば。貴様が何者であるかなど私は興味ない。ただ貴様が私を騙そうとした。それだけが事実であり全てだ」


 信用を失うのは一瞬だが取り戻すには一生かかる。

 そんな言葉がある通り、どうやら私は決定的に間違えてしまったらしい。

 レヴィーア本物のフリをしようとしたから?

 それとも、リベル様と呼んで偽物だとバレてしまったから?


「ごめんなさい、今日は出直します。だけど、王様に直談判して絶対リベル様をここから出しますから!」

「好きにしろ」


 とりあえず檻から手を離し、深呼吸する。

 あのクソガキはしばく。絶対にだ。

 そして可能ならリベル様の信頼を取り戻そうと思う。いや、信頼されなくても良いから刺客ではないと分かって欲しい。


「よしっ!」


 気合は十分。推しのためならどこまでも!

 見せてやるともオタクの力!!


 あっでもその前に、もうバレてしまっているなら仕方ない。ちょっと自重してたけど、これからあのクソガキに会いに行くし、景気づけに一発リベル様をキメても良いよね?


「最後に……踏んでください、リベル様!」


 はい、そのゴミを見るような目! ご褒美です!! ありがとうございますッッッ!!

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