第9話 あんのクソガキィイイイイ

「リベル様……!」


 投獄された話を聞き、急いで登城した私が通されたのは、薄暗くて汚い地下牢だった。

 リベル様の地位から考えて、例え罪を犯したところで本来ならゲストルームのような一室で軟禁というのが妥当な処置。それなのに昨夜唐突な王様の一声で、こんな場所に入れられてしまったというのが、来るまでに聞いた事の経緯だった。


 何これ、こんなルート知らない!


 全部のルートを制覇していないから、絶対ないとは言えけど、少なくとも私が触ったルートにはこんな展開存在しなかった。そもそもラスボスが序盤で逮捕されるって、これ物語として成立する!?


 とんでも展開に沸き上がる怒りのまま鉄格子を掴んだら、『ダンッ……』と思ったより良い音が地下牢に響き渡った。


「騒々しいな」


 耳障りの良い低い声が、薄暗闇の向こうから聞こえる。

 光源として持たされた蝋燭を掲げれば、この地下牢には相応しくない高質そうな椅子に、足を組んで座るリベル様の姿が見えた。しかも爛々らんらんと輝くリベル様の左目が私を真っ直ぐ捉えている。こんなに目が合っているのは、もしかしたら初めてかもしれない。


「う、うるさくしてすみません……でも、何故リベル様がこんな所に閉じ込められているんですか……!」

「声量を下げたまえ。貴様の声が頭に響く」

「アッハイ、すみませんでした」


 不機嫌を隠しもせずにそう言われれば、さすがの私でも少しは落ち着きを取り戻せた。

 投獄されているというのにどこまでも平常運行というか、どこか楽しんでいるようにも見えるリベル様は「私がここにいる理由だったな」と言いながら足を組み替えた。


「陛下が私を不要だと申したからだ」

「は」


 あんのクソガキィイイイイ!!


 鉄格子を掴む手に力が入る。

 リベル様の罪状は並べたらキリがないとはいえ、今は物語の序盤。上手くやってきたから尻尾を掴まれるはずはないと思っていたけど、まさか王様の癇癪かんしゃくだなんて!

 道理で誰に聞いてもリベル様の罪状を答えてくれなかった訳だ。だって現段階では完全なる無罪なんだから!

 おかげで警備はガバガバ。リベル様が座っている椅子だって、誰かが気を遣って用意したんだろう。

 私を案内してくれた看守さんも気まずそうな顔をする訳だ。


「私陛下に直談判してきます!」


 地下牢にいたってリベル様の輝きは損なわれないけど、やっぱり明るいところでご尊顔を拝みたい! それにエンディングを考えると、いろいろと居た堪れない……!


「待て」


 王様の元へ駆け出そうと思った時、リベル様の冷たい声が私を呼び止めた。


「何故貴様がそのような事をする」

「何故って、私はリベル様の婚約者ですし——」

「戯れ事を。私は貴様のような者と婚約した覚えはない」

「ええっ!? そ、それは流石に私ちょっと辛いと言いますか……」

「貴様はレヴィーア・フローディアはではないだろう」

「ぇ……」


 断言されてしまい、言葉に詰まる。

 おかしいな、今回は変なことしてないはずなのに何故……

 その口調も、その眼差しもこれはかまかけなどではなく、確信を持って私が『偽物』であると断じている。


「さて、貴様は誰だ」

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