第5話 貴様は誰だ

「リベル様! お茶はいかがですか?」


「リベル様! おやつにサンドウィッチを作ってきました! 召し上がってください」


「リベル様!」


「リベル様!」



 ………

 ……

 …



 強制退室を命じられた後も、私はめげずに毎日リベル様の執務室へと通い続けた。


 ある日はお茶を淹れようと、侍女さんに茶器を借りてみたり。

 ある日はサンドウィッチを作るために、お城の厨房へ出向いてみたり。

 そしてある日は肩揉みしてあげようと、リベル様に近づいてみたり。

 お茶もサンドウィッチも手をつけてもらえず、肩揉みは辿り着く前に衛兵さんに止められた。


 くっ、なんてガードが硬いんだ!


 リベル様はお偉いさんだから、当たり前なんだけど私は仮にも婚約者なのに、この冷たい態度……


 たまらない! 踏んでくださいリベル様っ!!


 なんて思いながら、今日も私は熱い視線を送る。


「はぁ〜尊い、リベル様ぁ〜」


 最早鳴き声と化しているこの呟きは、衛兵さんすら反応してくれなくなった。それほどまでに、私はここに通っているってことなんだろう。


 毎日のように通い続けたことで、一つ分かったことがある。

 それは、リベル様がめちゃくちゃ忙しいという事!


 いやいや何当然な事をと思うなかれ。


 私の中では、汚職を働く高官は自分が楽するため、良い思いをするためにやるものだというイメージがある。

 でもリベル様の悪事に汚職はあれど、それを享受している様子はなく、朝早くから夜遅くまでずっとずっと何かしらの仕事をしていた。

 

 これが異世界版ワーカーホリックか……


くまも凄いし、心配だなぁ」

 

 何気なく、そんな言葉が口から溢れた。

 私の心配なんてどうせスルーされるだろうと思っていた。それなのに、リベル様は読んでいた書類から顔を上げて、


「レヴィーア・フローディア。一つ貴様に問おう」

「はい! なんなりとっ!!」


 連日無視が続く中、ついにリベル様に声をかけられて、私は思わず敬礼を決めて言葉の続きを待った。


 ななな、なんだろう!? 

 ついに私の熱意が伝わったとか? じゃあ質問は、『何故俺様を気にかけるんだ』とか? 

 えーどうしよう! なんて答えよう! もちろんリベル様のことが好きだからなんだけど、そんなこと言ったら引かれちゃうかな?


 なんて、想像しながら私は胸を高鳴らせていた。

 久しぶりに声をかけられた事で、私のテンションはうなぎのぼりだし、私は楽観的にも思っていたんだ。

 今まで読んできた物語のように、中身の変わった私の行動は無条件で受け入れられ、リベル様も気を許してくれると。

 だから……


「貴様は誰だ」


 冷たい声でそう言われ、私の心臓は止まりかけた。

 金眼と言うには赤すぎる、オレンジの瞳が私を射抜く。嘘偽りなど許さぬと主張する様に。

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