R2.私は再び決意する

第4話 推しが目の前で息してる喋ってる動いてるぅうう!

「ごきげんよう! レヴィーア・フローディアよ!」


 鏡の前でポーズを決めて、自己紹介をする。

 お嬢様言葉とか良く分からないけど、ゲームや小説知識では多分こんな感じだったはず!

 横目でメイドのメイリーファことメイを盗み見ると、僅かに肩を震わせていて……


 あっ、ダメな奴ですね!? 分かります。


 はい。というわけで、あれから『踏んでください』とうっかり口を滑らせた私は、普通に追い出されて屋敷に帰還。それから一晩経って朝なうってわけだ。


 だって混乱してたんだもん、しょうがないじゃん。死んだと思った推しが生きてたんだよ? しかも目の前で怪訝そうな顔をしてたんだよ? もうさ、最高だよね!

 正直昨夜は興奮しすぎて全く眠れなかったし、今だって興奮している。

 

「レヴィーア様、本日も登城されるご予定ですか?」

「そのつもり! へへへ、リベル様にお茶を淹れて差し上げたい……!」

「かしこまりました。では登城用のドレスをご用意致します」


 一礼して去っていくメイを、私は見送る。

 さーて、昨日は何もできずに追い出されちゃったけど今日こそは……!

 

 昨夜混乱したままメイにいろいろ聞いたところ、どうやら今はゲームのオープニングに当たる頃の日付らしい。つまりエンディングに当たる処刑日の三ヶ月前。

 私が覚えているあのリベル様に婚約破棄されて処刑までの話は、どうも時間が巻き戻ってノーカンになったっぽい。なんと言うか小説で良く見た、死んでから昔に戻ってやり直すパターンってわけだ。死んだのリベル様だけど!


「レヴィーア様、お待たせ致しました」


 ちょっと豪華なドレスを持ったメイが、数人の侍女を連れて帰ってきた。貴族というのは不便なもので、身支度一つ一人ではさせてくれない。と言っても自分でドレスなんて着れないのだけど。


「ありがとう、メイ」

「当然のことをしているだけにございますので、礼は不要です」

「あ、はい」


 メイにマジレスされてちょっと落ち込む。

 お礼を言ったら驚かれる! なんて悪役令嬢みたいなイベントはなかった。どうやら元のレヴィーアは、傲慢で恐れられているキャラではないみたい。

 悪役令嬢ムーブも憧れるけど、普通な方が気が楽だよね。


 しばらくの間侍女達に身を任せて着替えや化粧を済ませれば、どこに出ても恥ずかしくない貴族のレヴィーアは完成した。鏡を見れば、モブ感を増やしていたソバカスは化粧で隠されていて、かなり可愛いのでは!? と自画自賛する。


「さーて、リベル様に会いに行くよ! メイ、馬車の準備を」

「かしこまりました」


 リベル様への差し入れにバスケットを一つ持って、私は意気揚々と登城する。


「おはようございますリベル様!」


 元気よく挨拶をして、私はリベル様の執務室へと訪れた。当のリベル様はそんな私に一瞥いちべつもくれることはなく、黙々と何かの書類と向き合っている。


 ……はあ、リベル様素敵!


 画面越しじゃない実物のリベル様が目の前にいるなんて、感動を通り越して虚無になりそう。イベント会場でリベル様のレイヤーさんを見た時でさえ感動して震えていたのに、こんな、こんな……! 心なしかリベル様の良い匂いがする。と言うか私今推しと同じ空気を吸っている!? うそうそ……こんなのもう実質間接キスでは? 


 ゔっ、待って無理鼻血が……


 慌てて鼻を押さえてうずくまる私を見て、リベル様は一つため息をついた。


「おい、そこの。どうやら彼女は体調が優れない様だ。至急フローディア家に連絡し、門まで送って差し上げろ」


 喉に声優さん飼っていらっしゃいます??


 ゲームで起用されていた大御所声優さんと全く同じ声に、私のテンションは天元突破をしかけ……


「フローディア嬢。こちらへ」


 たところで、近くに控えていた衛兵さんに腕を取られた。まるで犯人を護送するかのように連れ出される私。


 ああ、待って。それだけは、それだけはぁああ!


 時間は巻き戻ったはずなのに、婚約破棄された時と同じように、私は強制退室を命じられてしまった。

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