召喚士、崩壊に巻き込まれる
「……え?」
巨大な怪物になったフッドマンごと、城はおろか風景の一部である山脈まで断ち切った〝ドラゴンキラー〟という究極スキル。
ライトはそれに唖然としていた。
「好感度と竜特攻という相乗効果でチャンスはあるとは思っていたけど、さすがにここまでとは……。リューナ、もしかして本当に伝説の召喚王の――」
「むにゃむにゃ……おはようございます」
真剣な表情で問い詰めるライトだったが、リューナは寝ぼけ眼を指で擦っていた。
眼に浮かび出ていた女神イズマの紋章は消えている。
「おはよう……?」
「すみません、ちょっと前から寝ちゃっていたようです。さぁ、黒幕フッドマンはどこですか! この私――竜の勇者リューナが倒してご覧に入れましょう!」
「いや、もう倒しているし」
「えっ!? 私が寝てる間に手柄を横取りされましたか!? 一体誰が!?」
「リューナが倒した……って、覚えてないのか。いや、それよりも」
直近の記憶を失っているリューナを放置して、やらなければいけないことを思い出した。
「本当にソフィが殺されてしまったのか確かめないと……。もしかしたら、まだ生きているかもしれない」
「プレイヤー……下手な希望を持つと辛いですよ。あの状況でフッドマンがウソを吐いて得をするようなことがないですし」
「ああ……」
ライトも本当はわかっていた。
それでも、どうしても心のどこかでソフィなら生きていると信じたいのだ。
ドラゴンキラーで不思議な空間が破壊されたことによって、奥に続く道を見つけていた。
ライトたちは覚悟を決めて進む。
***
「わたくしを助けに来てくれたのね! ライト!」
「ソフィ!? 無事だったのか!」
王の間の奥にあった、王妃の部屋。
そこにケガ一つ無いソフィが監禁されていた。
ライトに抱きついてこようとしたが、リューナが間に入って止めた。
「プレイヤー、もしかしてこの方は偽物なのでは?」
「うーん……」
ライトも、その可能性があると思ってしまった。
ソフィはそれに対して、『もうっ!』と不機嫌になった。
「それなら、ライトの秘密を答えて証明致しましょう。ライトの好きなチェスのコマはポーン。努力によって強くなれるコマだからです。ライトが魔力切れを起こした回数は307373回。そんな努力家のライトでも、おねしょだけはなかなか直らなくて――」
「わーっ! もういい、わかった! ソフィだ! 本物だから!」
「はい、わかればよろしいのですよ。わたくしは、ライトのことは世界一詳しいのですからね!」
「あのなぁ……」
ライトは色々と突っ込みたかったが、急に足元が揺れ出した。
「うおっ!? これは――」
「やべぇ、城が崩れ始めてるぜ!? どうすんだよライト!」
「落ち着けブルーノ。こんなときのために、リューナが丁度良い魔法を――」
全員の期待を一身に集めるリューナだったが、本人は申し訳なさそうにしていた。
「えーっと……気が付いたら魔力がすっからかんでした」
「あー……ドラゴンキラーで……」
「しかも身体に反動が来ていて、ゆっくり歩くのが精一杯です。もし今、敵でも現れたら……」
本来ならリューナの身体能力で誰かを抱えて走り、崩落する城の三階から飛び降りて脱出することも可能だろう。
しかし、魔力がなければただの年頃の乙女と変わらない。
ライトもブルーノもボロボロで疲れ果てていて、万策が尽きたかに思われた――そのとき。
「えっ!?」
城のNPCたちが出現した。
***
しばらくしたあと――ライトたちは、無事に街へと帰還していた。
城が崩落してもうダメかと思ったのだが、城のNPCたちが脱出に協力してくれたのだ。
好感度100は伊達ではなかった。
城と共にNPCたちも消滅したが、最後まで笑顔で見送ってくれた彼らのことは忘れないだろう。
それからイズマイール王に謁見をして、何でも褒美をもらえることになった。
しかし、ライトが望んだのは――
「何もいりません。努力して強くなれる、今の自由な環境が望ましいからです」
ということだった。
王には
――そして城から去って、新たな旅路へと向かおうとするライトの背中を、城の窓から眺めている真の黒幕がいた。
「努力とは、この世界の何よりもかけがえのないもの。努力するライトをわたくしは愛します。さて、次はどのような努力が必要な環境へ向かってもらおうかしら?」
ソフィ・イズマ・イールは、心臓の位置に穴の空いた血だらけのドレスを捨てながら、どこまでも見通せる女神の眼で微笑んだ。
――――
あとがき
面白い!
続きが気になる……。
作者がんばれー。
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