召喚士、究極にして最強の幻想英雄を知る
どこからともなく法衣を着た初老――フッドマンが歩いてきた。
今回の黒幕であり、何らかの目的でライトを追放にまで追い込んだ男だ。
「最高司祭様、どうしてこんなことを……」
「何度聞かれても同じですよ、ライト君。最高司祭たるもの、主たるあの御方以外の言葉には従いません」
「……女神イズマ様がこんなことを望んだというのですか?」
フッドマンは柔和な笑みを浮かべた。
「ええ、私はイズマ様の声を聞いたのです。そう、アレは新たな召喚の触媒を作るために獣人の子どもたちを殺して、乾燥させて、すり潰して、粉にしていたときです」
「……なっ!?」
「その粉を吸い込みすぎて魔力が昂ぶっていたとき、イズマ様の天啓が聞こえてきたのです。それはもう、一言では言い表せないくらい、脳に響き渡る素晴らしいご指示でした」
フッドマンは十字架型のケースから錠剤のようなモノを取りだして、口へ運ぶ。
その目は怖いくらいギラギラしていた。
「獣人の子どもたちを材料に……正気じゃない……」
「ライト君が語る正気とは何でしょうか? 自らの脳が正しいと錯覚している行動を正気と呼ぶのでしょうか? それとも、多くの者が正しいと思う行動のことを正気とするのでしょうか?」
「それは……」
ライトにとって、小さい頃からフッドマンは先生でもあった。
その口調は敵になっても、教え導くようなものだった。
「では、多くの者が正しいと言うようになれば、それは正道なのですね? ええ、正解です。なので、この世界をバグズの侵食能力によって、私が賜った女神の御言葉を共有したいと思います。素晴らしい世界になりますよ、これは!」
「まさか、そんなことのために――」
「はい、すべてはそのためです」
「――好き勝手言いやがって!」
それまで黙って聞いていたブルーノが咆えた。
「キングレックス! 行け! フッドマンのクソ野郎を踏みつぶせ!!」
『グォォオオオ――……グ、ググ』
「ど、どうしたキングレックス!?」
召喚者であるブルーノの指示に従おうとしたキングレックスだが、その動きが止まってしまった。
「おやおや、こちらはキミたちを我が子のように思っていたのに、『クソ野郎』とは酷いですよ。ブルーノ君。ああ、ちなみにキングレックスも計画の一つです。本物の召喚王の触媒ではなく、獣人の子どもから作ったコピーです」
「なんだとぉ……!?」
「本当はキングレックスではなく、召喚王が喚び出したとされる二体の幻想英雄の触媒をコピーしたかったのですが、情報がほぼ抹消されていて断念しました。まぁ、当時キングレックスの方はバグズとなって、竜殺しの幻想英雄に討ち取られたらしいので、私の計画と相性がよかったですね」
フッドマンが手招きすると、キングレックスは勝手に動き出した。
その身体は黒い靄に包まれ――バグズと化していた。
「うん、良い具合に育ててくれましたね。ブルーノ君。本当はあのとき、ライト君に受け取ってもらい、暴走して魂ごと餌になってほしかったのですが。いやはや……まさか、結果的に奪い取って、キミがライト君を助けることになるとは」
ライトは、フッドマンの話すことのほとんどが理解できなかった。
だが、とてもマトモではない精神の持ち主だというのは理解できた。
それなら先に聞かなければならない――
この城でまだ姿を見せていない彼女のことを。
「最高司祭様……ソフィはどうしたのですか?」
「ああ、ソフィ様ならもう――殺しましたよ」
その言葉にライトは衝動的に拳を握り、力を込めすぎて震えていた。
「……どうして……殺した」
「本来ならオータム君に自主的に従ってもらうための餌だったのですが、倒されてしまっては無意味でしょう。なので、オータム君にはこうやって強制的に従ってもらうことにしました」
消えそうになっていたオータムの身体に、キングレックスが融合していく。
グネグネと肉が蠢き、ライオンと恐竜のキメラのような巨大生物が誕生した。
「これで身体は完成です。そして――頭脳は私です! 女神イズマ様のお声を聞ける唯一絶対の私が、世界を侵食して信仰を広げましょう! ライト君の〝努力〟は、この瞬間のためにあったのです! 本当に感謝していますよ!」
フッドマンは、自らも肉の塊に入っていき、その笑顔の頭部だけを見せていた。
ブルーノは唖然として、立ち尽くしていた。
「おいおい、ウソだろ……。オータム・バグズだけでもあんなに苦労したのに、キングレックスとフッドマンまで……。こっちは満身創痍なんだぜ……」
自らの召喚獣を失い、真相を知ったブルーノは心が折れてしまっていた。
「か、勝てねぇよ……あんなバケモノ……勝てるはずがねぇ……」
「まだ諦めない。勝つ努力をするだけだ」
「ら、ライト……!?」
ブルーノは、横を通り過ぎるライトの背中を見ていた。
普段より大きく感じられる。
いや――目に見えないはずの魔力が怒りの色を帯び、ライトの存在を一回り大きく感じさせてしまっていたのだ。
「オータムの想いを利用して、ソフィまで殺したあいつ――フッドマンに負けるわけにはいかない」
「ほう、ライト君。この無敵の肉体を得た私に勝てるとでも?」
「ああ、不思議と頭がスッとしているんだ」
普段、ライトが周囲にまき散らしていた膨大な魔力だったが、生まれて初めて感じる強い怒りによって一点に供給されていた。
その一点とは――竜の勇者リューナ。
「フッドマン、お前はいくつもの間違いを犯した」
「ほう……?」
「この観客がいる場で、自らの悪行を白状したこと――」
【ライトパーティー:好感度100】【フッドマン:好感度0】
「それと――竜の身体を得たことだ」
ライトの傍らに、澄み切った水面のような気配で佇むリューナがいた。
その雰囲気はいつもと違う。
初めて十全なる魔力を注ぎ込まれ、本来の〝内に秘められしモノ〟を発露させているのだ。
「〝
「リューナ……ドラゴンキラーだ」
リューナは腰だめに構え、鞘に収まっている剣にソッと手を添える。
その剣は世界を分割する装置。
神の力と接続するために瞼を閉じ、無駄な視覚を遮断する。
「ハハハ! ライト君。これしきの条件と、たかが一体の召喚獣のスキルで、この究極の身体を得た私――フッドマンを倒せるとでもお思いですか?」
まだフッドマンは余裕綽々だった。
ライトは揺さぶりを掛けるために、一階のNPCたちとのやり取りで得た演技力を使ってハッタリをかますことにした。
「召喚王が従えた、竜殺しの幻想英雄――リューナなら倒せるさ」
それを聞いた瞬間、フッドマンの顔が青ざめた。
「ま、まさか、そんな、ありえない……! 貴方に送ったのは、ただの余り物の〝銀の円盤〟のはずです――……はずなのに…………あああああああ!!」
(変だな……テキトーに言っただけなのに焦りすぎている?)
リューナから何かを感じ取ったのか、フッドマンは取り乱していた。
獅子と恐竜の頭部から、焦って上級魔法の炎を吐き出そうとしている。
こちらに放つつもりだろう。
だが遅い。
――瞬間、リューナが静かに呟く。その口調は機械的。
「
リューナは瞼を開けた。
その瞳には女神イズマの紋章が光り輝いていた。
「我は竜の天敵なり!
瞬きをする間の出来事。
銀色の一閃が空間を薙いだ。
それはどこまでも広がり、形のない炎を斬り割き、怪物の巨体を音もなく真っ二つにして、その背後にある壁を――遠くの山脈を――蒼穹漂う雲を――ことごとく分断していた。
それは世界を
「そんな……私は神に選ばれていなかったというのです……か……」
フッドマンだったモノは塵となって消え去った。
――――
あとがき
面白い!
続きが気になる……。
作者がんばれー。
などと感じて頂けましたら、下の方の★か、ビューワーアプリなら下の方の矢印を展開し、ポチッと評価をもらえますと作者が喜びます!
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