召喚士、決戦の場に到着する

 最上階である三階に上がったライトは、考え事をしていた。

 それはマルタルから説明されたことだ。


「バグズによって世界が滅びる……か」


 普通は、たかが一体の召喚獣によって世界が滅びるなどはありえない。

 しかし、幻想英雄は普通の召喚獣ではないのだ。

 ゲームという非現実から、信仰の力によって現実へ昇華させるという、物理、魔法の法則すら超えている未知の領域だ。

 女神イズマの導きによって世界のルール内で活動しているリューナたちとは違い、バグズと呼ばれるものは傍若無人に世界へ影響を及ぼす。


「先ほどのマルタルという方が言っていましたね――世界へ〝侵食〟が広がると」


 リューナがポツリと呟いた。

 バグズが存在するだけでも世界に歪みが生じて、そこから非現実が〝侵食〟していくという話だ。

 さらに世界に恨みを持つような悪意を持っている場合は、この速度が急激に上がるらしい。

 結果的に世界が――この世界でなくなるということだ。


「これがオータム・バグズを喚んだ最高司祭様……いや、フッドマンの野郎の目的だっていうのかよ!」


 ブルーノはそう息巻くが、先ほどの試練の精神的ダメージによってフラついている。

 よっぽど、ライトへの罪悪感が強かったのだろう。


「まだわからないことだらけだけど……オータム・バグズと最高司祭様を倒して、ソフィを助け出さなきゃいけないことだけは確かだよ」


「……そうだな。ソフィ様は本当に何も関係なく、ただ巻き込まれただけだ。このブルーノ・ギリッシュの命に代えても、必ず助け出してやるぜ!」


「味方になると心強いね、ブルーノ」


「ったりめぇよ! オレだって、今は好感度システムとやらで強化されてるしな! 頼っていいぜ!」


 そう話している内に、大きな扉の前にやってきた。

 どうやらこれがオータム・バグズが座す〝王の間〟へ通じる扉らしい。


「開けるぞ」


「開けた瞬間、炎魔法がドカンってなったりしてな?」


 そのブルーノの軽口に対して、レオーが呆れた声で告げた。


「そうはならないさ。なにせ――」


 ライトによって扉が開けられた。


「観客たちが見ているからな」


「なっ!? ここは城の中だったんじゃ!?」


 レオー以外の三人は驚いていた。

 扉の先は王の間というより、歌劇場のような舞台の上だったからだ。

 スポットライトが眩しい。

 広い観客席まで用意されていて、まるで異次元に入ってきてしまったかのようだ。


「ど、どういうことだ……。転移……、もしくは城を造った極大魔法による空間湾曲か……?」


 振り返るも、入ってきた扉すらなくなっていた。


「ようこそ、オレ様の王の間へ。どうだ、オペラ座のようなところで驚いたか? ……いや、こちらの世界にはオペラ座はないのかもしれないな」


 舞台袖からオータム・バグズが現れた。

 王笏をステッキのように軽やかに回しながら、観客へとアピールの一礼をする。

 そうしてライトたちに対して背を向けた瞬間、ブルーノがハルバードを持って突進していた。


「隙有りだぜ!」


くなよ、そういうのは〝好感度〟が下がるぞ?」


 ブルーノのハルバードは、オータム・バグズの指先で止められていた。


「なっ!?」


 驚愕の表情のブルーノは、体中の血が冷えたような感覚で後方へ飛びのいた。

 同じように好感度システムで強化されているはずなのに、ありえないほどの力の差だ。


「ブルーノ、よせ。これは――」


 レオーが冷静に説明する。


「観客たちから見て、好感度を下げるような行動をするとパワーダウンするぞ」


「なに!?」


「そうか……ここの観客たち。見覚えがあると思ったら一階のNPCたちだ」


「よく気が付いたなライト姫。その通りだ。観客に対して一礼しているオータム・バグズの背後から不意打ち――それを卑怯と受け取られて誰かの好感度を下げたのだろう」


 ライトは理解してきた。

 ただでさえ手強いオータム・バグズを相手にして、なおかつこの好感度を下げないように戦うという〝システム〟に縛られるルール。


「このゲーム、チェスより難しいな……」


【ライトパーティー:好感度100→60】【オータム・バグズ:好感度90】

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