召喚士、好感度システムを利用してみる

「レオー、質問がある」


「なんだ?」


「……乙女ゲーって、どんなジャンルなんだ?」


 チェスなどの非電源ゲームしかしらないライトは、初めて聞く『乙女ゲー』というものが何なのかわからなかった。

 リューナの『RPG』や、イナホの『牧場ゲーム』はスキルや会話から何となくやることを理解していたが、レオーからはそういうものが感じ取れない。


「そうだな……定義は色々とあるが、大雑把に言うと『女の子になって、イケメンと恋愛をしていくゲーム』だ」


 まったく想像ができないライトは首を傾げた。

 それを聞いていたブルーノがハッとした顔で――


「騎士団の連中と、城のメイドたちで行われた『城内合同コンパ』ってやつみたいなものか!?」


「「「なにそれ……」」」


 ブルーノは三人に呆れ顔で見られて、興奮気味だったテンションを気恥ずかしさで下降させた。


「話を戻すぞ」


「ああ、進めてくれレオー」


「ようするに意中の相手の好感度を上げて、射止めればゲームクリアというものだ。そのシステムに関連してこっちの世界では、NPCから好感度を得られると実際に強くなれるということだ」


「NPCって、ここにいる輪郭がぼやけている人たちだよね?」


「そうだ。人間のように振る舞っているが魂はない。幻想召喚と違って、簡易的に喚び出されたモノだからな」


 ライトは広いパーティー会場を見渡した。

 老若男女、町人から貴族まで大勢のNPCが人間のように立ち振る舞っていた。

 誰も彼も線が細く、驚くほど美形だ。


「ちなみにイケメンを落としていくゲームと言ったが、女性にも好感度が設定されている。ついでにキャラ同士の好感度もあって……戦闘やダンジョンも用意されていたりと無駄に作り込まれているぞ」


「す、すごいんだね乙女ゲー……」


「すごいと言えば、大体のルートで死人が出るところもすごくてな」


「恋愛をするゲームなのに死人が出るの!?」


「そこらへんは好感度を上げようとしてみればわかる」


 嫌な予感しかしないライトだったが、ここで怖じ気づいていても仕方がない。

 前に進むために決心をした。


「それじゃあ、ブルーノ。ちょっとNPCさんに話しかけてくれ」


「はぁ!? なんでオレが!? 今の流れだと完全にライトが行くところだろ!」


「な、なんかブルーノの方がこういうの慣れてるかな~って……」


 ライトの言葉に、ブルーノはこう考えた。

 自分よりブルーノの方が魅力があって、ブルーノの方がモテる。

 そうライトは言っているのだと。


「へへ……しょうがねぇなぁ!」


 ちなみにライトとしては、恋愛とか興味の薄い苦手分野なのでテキトーに押しつけただけである。


「へーい、そこの彼女ー!」


 早速、ブルーノは女性NPCに話しかけていた。


『はい、なんでしょうか?』


 女性NPCはウェーブのかかった金髪を揺らしながらふり返り、明るい笑顔で答えた。

 その瞬間――ブルーノの目の前にウィンドウが現れて三つの選択肢が出てきた。


「うお、なんだこりゃ!?」


「リューナのスキルでも現れる『空中に浮かぶ文字』か……内容は――」


【①こんにちは。今日も良い天気ですね】


【②その髪型ステキだね、似合っているよ】


【③テメェの顔を見ると吐きそうだ、どこかへ去れ】


「この三つだけど……この中から選ぶのかな?」


 コクリと頷くレオー。


「はっ、楽勝じゃねーか! オレの恋愛力を見やがれってんだ!」


 自信満々のブルーノは、②を指差した。


「これだぜ! 褒められて嬉しくない女なんていねーだろう! ウワハハハ!」


「あ、セリフも自分で喋らないと認識されないからな」


「お、おう。そうか……」


 レオーから指摘されて、急にブルーノは動きがぎこちなくなった。

 何となくNPC相手なら平気だと思っていたが、女性慣れしていない部分が顔を出してしまっていた。


「え、ええと、そ、そそそそその……あの……髪型……いいじゃねーか。似合って……いる……ぜ……?」


「うぷぷ」


「て、てめぇ! ライト! 笑うんじゃねぇ! でも、どうだ。言ってやったぜ……これでこの娘はオレに首ったけに――」


『私の大嫌いな髪型を褒めるなんて……嫌味なの!? 死ねッ!!』


 NPCはナイフを手に、ブルーノの首に刃を突き立てようとしていた。


「うおぉぉおおお!?」


 ブルーノは辛うじて両手で掴んで押さえているが、細身の女性の割に力が強い。

 たとえるなら歴戦のオーガのような、とてつもないパワーだ。

 ギリギリ拮抗している状態で、手がプルプルと震えている。


「あ、思い出した。ライト、③のセリフを言ってみるんだ」


「えー、俺が言うの? ちょっと恥ずかしいっていうか……」


「ふはは、じきに慣れるわ」


 ライトとレオーの緊張感のないやり取りに、刺されそうになっているブルーノは面白いほど必死に叫ぶ。


「なぁに、のほほんとしてんだ!? 早くどうにかしやがれぇぇぇえ!?」


「しょうがないなぁ……えーっと、それじゃあ不本意だけど――『テメェの顔を見ると吐きそうだ、どこかへ去れ』……でいいのかな? うわー何か汚い言葉でごめんなさい」


「おぉ、プロの演者のような声音こわね。意外な才能だな、ライト姫」


 そのライトの言葉を聞いた途端、NPCはピタッと動きを止めた。

 ライトの方に振り向いて、恍惚の表情を見せる。


『素敵! もっと罵ってくださいませ!』


 罵倒の類を言われて嬉しそうなNPCを見て、ライトは戸惑ってしまう。


「……これ実際に言ったら、グーで殴り返されても仕方のないような言葉だと思うけど……」


「ライト姫、乙女ゲーでは色々な需要があるのだ……。正直、オレ様も理解はできないが。乙女たちの心はステンドグラスのように複雑と言えるだろう」


「そーなのかー」


 ウィンドウに好感度アップの文字が出て、ライトは自らの身体が少し強化されたことを感じた。

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