召喚士、好感度を稼いでいく

「さて、この調子でどんどんいくぞ。ライト姫。ちなみにNPCの攻略法は覚えていたり、覚えていなかったりだ」


「不安だな~……」


 そう思いつつも、今は好感度システムで強化していくしかオータム・バグズに勝つ方法はない。

 ライトは観念して、近くで肉を喰っていた筋骨隆々の男性NPCに話しかけることにした。


「こ、こんにちは」


『おう、よく来たな! あの呪われし秋の獅子王オータムにも引けを取らない力を、腕相撲で感じさせてやるよ!』


 筋骨隆々の男性NPCは立食テーブルに肘を置き、手のひらをグーパーさせてライトを見つめていた。


「腕相撲勝負で勝てば好感度が上がるってことかな……?」


「ああ、これか。オレ様思い出したぞ。我が愛しのヒロイン、マルタル姫が強引な腕相撲勝負を押しつけられて、それを助ける形で代打の腕相撲をするシーンだな。ちなみにマルタル姫は本当の姫ではなく、一般庶民の出だが、オレ様が姫と勝手に呼んでいるだけだ。オレ様が美しいと感じた者は、全て姫と認定するからな」


「後半のレオーの個人的な情報はいらなかったけど、説明ありがとう」


 ライトは早速、ガシッと手を掴んで腕相撲を開始した。


「ふんっ! ふんぎぎぎぎぎ……!! このNPCさんメチャクチャ強い!?」


『うりゃ!』


 まるで山を相手にしていると感じた瞬間、ライトは身体ごと片手で投げられてしまった。


「ぐはぁっ」


 そのタイミングでドヤ顔のリューナが一歩前に出てきた。


「ここでステータス自慢の私の出番ですね! 汚名挽回です!」


「名誉挽回ね」


 真剣な表情でリューナが腕相撲に挑むも――


『うりゃ!』


「……負けました」


 一瞬で、リューナも同じようにやられてしまった。


「こ、これどうやったら勝てるんですか!?」


「そうだなー……好感度システムで強くなってからのお楽しみだな」


 ようするに攻略は後回しである。

 NPCが多いため、いけるところからサクサクいくことになった。




『ふん、愛に敗れた我輩は金しか愛さないのであーる』


「お金かー。ゴールドでどうにかなるかな?」


『この黄金の煌めき。忠誠を誓おう』


【好感度アップ】




『はっ、そんな芋臭いアンタなんて、獣王たちは誰も相手にしないよ! もっと可愛くなりな!』


「可愛く……? いったい、どうしたら……」


「プレイヤー、ここに私のワンピースがあります。それと、いつの間にか敵からドロップしていたサラツヤ長髪ウィッグもどうぞ」


「ちょ、待て!? 脱が……っうわああああ!?」


『これは……世界一の可愛さね。このアタシが認めてあげましょう』


「……」


【好感度アップ】





『拙僧は幼い頃から母がいなかった……。母性というものを感じたい……』


「プレイヤー! きっとこれはママになるんですよ! ……どうしたんですか? 目が死んでますよ?」


「ママダヨー」


『貴女こそ聖女……いえ、聖母! もしかしたら、あの呪われし秋の獅子王の心を救ってあげられるかもしれません……彼もまた、母を失った悲しみを持つ者なのですから……』


【好感度アップ】




 ――それからもヒロインになりきったライトは、優しさ、料理勝負、運の強さ、身分差、献身、魔法学などを駆使して好感度を上げていった。

 好感度によって強化バフを得たライトは、この部屋の最後のNPCとなった腕相撲の試練に挑む。


『おう、よく来たな! あの呪われし秋の獅子王オータムにも引けを取らない力を、腕相撲で感じさせてやるよ!』


「もう何も怖くない……」


 ライトは、この部屋にやってきたときとは見違えるほどになっていた。

 身体中に漲るパワー、様々な試練を乗り越えてきた気迫、それと途中で女装させられていたので、可愛いワンピースに長い黒髪ウィッグ装備になっている。


「色々な意味で見違えましたね、プレイヤー」


「ずおりゃあああああああ!!」


 ズダァンと大きな音をたてながら、腕を押し倒すついでにテーブルごと粉砕した。


『ぐおっ!? ……まさか腕相撲で女に負けるとはな。どれだけ、あのダンジョンでオータムと鍛えてきたんだ……』


「あいあむちゃんぴおぉぉん!!」


 ライトは長い黒髪ウィッグを振り乱し、やりきった達成感もあり、ワケがわからないテンションで叫ぶのであった。

 ……ちなみにリューナ、レオー、ブルーノは少し遠くで引きながら見ていた。


【好感度アップ】

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