召喚士、黒い幻想英雄のことを知る

 レオーが告げた正体に、リューナとブルーノは驚きの声をあげていた。


「レオーが、あの黒い幻想英雄オータム・バグズ!?」


「お、おい!? まさかコイツ、だまし討ちでオレたちを殺ろうってんじゃ……!?」


 そんな中、ライトだけは冷静だった。


「いや、それなら今までいくらでもチャンスはあったと思う」


「ほう、ライト姫は驚いていないようだな」


「いつも思うけど、男に姫って付けるなよ……」


「男嫌いなオレ様の嫌味だ、有り難く受け取れ」


「まったく……。こういう性格が最初に遭遇したオータムと似ていたから、薄々は勘付いていた」


 ライトが冒険者ギルドで出会ったオータムも、小柄で顔の良いのライトが男だと知ると残念がっていた節がある。

 強烈な印象だったので覚えていたのだ。


「そこに気が付くとは、さすが私のプレイヤー……」


「リューナも一緒にいたのに……」


「そうでしたっけ?」


 ちなみにリューナはすっかり忘れていた。

 RPGの主人公キャラなので、謎解きや会話の記憶などは大体が人任せなためである。


「そこまでわかってて、明らかに怪しいオレ様を近くに置いていたのか。大した度胸だ。褒めてつかわすぞ」


 レオーはニヤリと笑った。


「その選択、正しいと言えるだろう。何せ、オレ様がいないと奴のシステムには対抗できなかっただろうからな!」


 いきなり出てきたシステムという言葉を皮切りに、ライトは様々な疑問が浮かんできた。


「システム……? それより、誰がレオーを召喚したんだ?」


「ははは、そんなことはどうでもいいではないか」


「オータムの目的は? 最高司祭は何をしようとしているんだ?」


「はは……はははは。それはオレ様が答える必要のない、些細なことよ」


 そこでライトは首を傾げる。

 何かおかしいと思い始めたのだ。


「ちょっと待った、レオー。いや、オータムと呼べばいいのか?」


「今はややこしいからレオーとでも呼ぶがよい。これは幼名ゆえ、偽名でもしっくりくるのだ」


「じゃあ、レオー。ちょっと話が飛びすぎているから、もうちょっと順を追って話してくれないか?」


「む、むむ……」


「何か、今の流れだと記憶が抜け落ちまくっていて、知っているところだけ話しているみたいになっているぞ?」


 レオーは少し後ろめたそうにして、視線を逸らした。

 まさか――とライトは察する。


「実はオレ様も、ちょっと強引な手段でこの姿になったから、把握できていないことが多いのだ! ハハハ!」


「……何を把握できてないのかも知りたいから、最初から頼む」


「チッ、手間のかかる奴だ。何でオレ様が懇切丁寧に説明しなきゃ――」


 三人は胡散臭そうな目でレオーを見つめていた。

 その無言の圧力によって、レオーは諦めたかのように喋り始める。


「はぁ……。さすがに幻想英雄の基礎知識については省くがよいな?」


「ああ」


「オレ様は銀の円盤を触媒にして、この世界に喚び出された……のだが、喚び出した相手や、目的は抜け落ちている。ジャミングをかけられたのか、あとから記憶が抜け落ちたのかはわからん」


「んー、仮定としては、喚び出した相手は最高司祭様で、目的はそれに関連するモノ……という感じだろうか?」


「そうしておこう。その直後、オレ様の美しい身体は黒い靄によって侵食されていった。ギリギリのところで自分の分身を作って、脱出させたわけだ」


「その分身がライオンのぬいぐるみ――レオーということか」


「まぁ、元々オレ様がゲーム内で獣の呪いを受けていて、その二面性を利用したわけだな。って、そんなことはどうでもいいわ。そのあとに偶然お前たちと出会って、コイツらならオータム……いや、オータム・バグズを倒してくれると思ったわけだ」


 たしかに辻褄は合うし、信頼してもいいだろうと思った。

 性格的には難ありだが、レオーは悪い人間ライオンではないからだ。


「それで、オレ様からのありがたーい忠告だ」


 レオーは短い両腕を組んで、偉そうにふんぞり返った。


「このまま戦うと負ける、確実にな! なんせオレ様だった奴だから強い!」


「たしかに、コロシアムで見せたあの魔法の威力は……」


「ああ、アレはただの素の強さだ。オータム・バグズはさらにゲームシステムの加護がある。リューナのレベルシステムのようなものだ」


「さらに強く……!?」


 オータムと直接戦ったリューナだけは、それに心当たりがあった。


「もしかして……私が放った究極スキルで無傷だった理由がそれですか?」


「その通りだ。アレに対抗できるのは同じ幻想英雄――そして、それを操るライト、お前しかいない」


 自ら指名された理由に、ライトは息を呑んだ。

 自分にしかできないという責任の重さもあるが、それと同時に強者と戦って経験を積めるという熱もあった。


「――さぁ、話している内に奴の居城に辿り着いたぞ」


 立ち止まったレオーはそう言ったが、ここは森の中で、周囲には木々しかない。

 何もない空間にライトたちは困惑してしまう。

 もしやと思って空を見上げても何もないし、もちろん地中に埋まっている様子もない。

 居城というのは何かの聞き間違いかと思った瞬間――


「これが奴のシステムでもあり、極大築城魔法でもある――〝我が腕はインウォカー最愛の姫ティオー・ブ君包む極炎ローディギウム〟だ!」


 突如として、眼前に炎の如く赤い城が出現した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る