召喚士、森を進む

「なぁんでオレが追放されて、ライトと一緒にパーティーを組まないといけねぇんだよ!?」


 森の中、ライトの横を進むブルーノがうるさく喚き散らしていた。

 ライトはいつも以上に笑顔だ。


「あはは」


「あははじゃねーぞテメェ、ライト! くそっ……マジかよ、追放ってマジかよ……」


「いやー、ごめんごめん。少し前の俺を見ている感じでおかしくて」


「うぐっ」


 ブルーノもそそのかされたとはいえ、ライト追放の原因を作ってしまったことを思い出した。

 同じことをされただけなので、あまり強くは言えなくなる。


「ブルーノ、今回のことを説明すると――キミが優秀で、ある種……信頼できるからだよ」


「よ、よくわからねーけど、褒められてるのなら悪い気はしねーな。詳しく説明してみろ」


「ソフィを助けるためには、国と関係なく自由に動ける人間――つまり冒険者が必要だった。それで、遅かれ早かれ失態で立場を追われそうなブルーノを、先に追放してフリーにした。フリーになっちゃえばただの冒険者として、パーティーに誘えるからね」


「ふーん……たしかにアレだけのことをやらかしていたのなら、オレは追放……もしくは処刑だったかもな。つまり……結果的に助けられたということか? でも、オレで良かったのか?」


 二人の前を歩いて敵を警戒していたリューナが、後ろを振り返らずに、同意とばかりに話に割り込んできた。


「そこのブルーノとやらは、プレイヤーの腕を真っ二つにしましたからね! 薬草でくっついたから良かったものの、しばらくは私……裂きイカとか食べられませんよ! プレイヤーが追放された原因も彼にありますし、本当に信用してもいいんですか?」


「それは大丈夫だと思うよ、リューナ。俺は嫌われているだろうけど、ブルーノは好きなソフィに対しては一線を越えられないくらいヘタレだし――」


「おい、ライト! テメェ! ヘタレとは何だ!?」


 ニコニコしながら毒舌気味のライトに対して、ブルーノは今にも噛み付きそうな勢いだ。


「だって、勢いでソフィを略奪愛したのに、会いたくないと言われたら部屋の扉をノックすることもできないって聞いたし?」


「う……」


「ブルーノは外見こんなんだけど、女の子と付き合ったことがなくて距離感掴むの下手だよね」


「うぅぅ……」


 身長190センチでスポーツマンタイプのブルーノだが、女性に対しては意外にも経験が浅かった。

 ソフィに対しても、接し方がわからずに暴走してしまったともいえる。

 ただ、そのあとは嫌がる事を一切できずに、フッドマンが婚約から結婚まで誘導した感じだ。


「城の噂じゃ、あれからソフィに指一本触れてないとか」


「う、うるせぇ! 黙れぇぇぇ!」


「というわけで、ブルーノはソフィに対してはこんな感じだから、救出に関しては信頼できるよ」


 普段と違うライトのイジり方を見て、リューナはボソッと呟いた。


「プレイヤー、意外と鬱憤が溜まっていたんでしょうか……。何か彼に対してだけはSっぽいですね……」


「何か言った?」


「いえ、何も」


「あとは少数精鋭がいいらしいのと、リューナと俺の力をあまり他に見せたくないから、事情を知っているブルーノが良かったというのもある。強いしね」


 ブルーノは耳をピクッと動かした。

 どうやら、強いという言葉が気に入ったようだ。


「しょ、しょうがねぇなぁ! ソフィのためだ! オレが敵をなぎ払ってやんよ!」


 ブルーノは嬉しそうにして、ハルバードをブンブンと振り回した。

 ちなみにあの黄金鎧は着ていない。

 そのとき――丁度トツゲキウリボウが姿を現した。


『ピギィーッ』


「おっし、オレの力を見せ――」


 ブルーノが前に出ようとした瞬間、雷鳴の如き素早い影が動いた。


「はっ!」


 その影はリューナだった。

 あまりにも素早すぎて、認識できなかったのだ。

 一瞬でトツゲキウリボウを倒して、ドロップ品へ変化させてしまった。


「……つ、つえぇ」


 竜の勇者の実力を見たブルーノは唖然としていた。

 きっと、コロシアムで戦っていれば一瞬で勝負が付いてしまっていただろう。

 ガックリとうなだれてしまった。

 そんなブルーノを放置して、ライトはレオーに話しかけた。


「さてと……もうそろそろ説明してくれてもいいんじゃないか? レオー」


「ん、ああ。そうだな」


 リューナの道具袋からピョコンと顔を出しているライオンのぬいぐるみは、真剣な表情をしていた。……ライオンの表情はわからないが、たぶん真剣だ。


「どこまで話したか。オレ様が探していた男が黒い幻想英雄――オータム・バグズで、アイツと戦うには大人数は無駄だから王に交渉してこいと言って、敵の本拠地がある森を案内中――」


「うん。そこらへんは聞いたんだけど、そもそも何でレオーはそこまで知っているんだ? レオーは何者なんだ?」


「知っているとも。それはオレ様が――本物の幻想英雄オータムだからだ」

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