召喚士VS召喚士1
ライトが薄暗い通路からコロシアムの中央に出ると、空の眩しさを感じた。
広いフィールドは楕円形で、頭上に天井はない。
地面は乾いた土で、石壁は現代より高度な古代建築で作られているため多少の攻撃ではビクともしないらしい。
『両選手、揃いました!』
解説らしき女性の声が音魔法で増幅されてコロシアム中に響き渡ると、大歓声が響き渡る。
どうやら観客は数千人いるようだ。
ライトはドラゴンローブを目深に被って、顔を隠しておいてよかったと安心した。
宮廷召喚士団長の息子が、第三王女の結婚に『待った』をかけるために乗り込むとか、国としても大恥になるだろう。
ちなみに登録名も偽名を頼んでおいた。
『虎の入り口からやってきたのは、謎の人物〝オズ〟だぁー! キングレックスを倒して最強を証明するためという、無謀なチャレンジャー!!』
詳しくは知らないが逸話で、オズというのは凄腕の詐欺師で魔法使いの名前らしい。
ライトは、今の自分の偽名にピッタリだと胸中で呟く。
そういえば――と王侯貴族の席に父はいるかと眺めたが、さすがにこの距離ではわからなかった。
バレたら気まずいので、いないことを祈る。
『続いて竜の入り口からやってきたのは、つい先日、正式な宮廷召喚士の仲間入りを果たした新進気鋭! ブルーノ・ギリッシュだぁー!! 王竜キングレックスの最強を示し、我らがアイドル、聖女姫殿下と結婚することができるのか!?』
「チッ、無駄に煽りやがって……」
解説を聞いたブルーノは不機嫌になりながら、コロシアムの中央へ歩いてきた。
「勝つのは……いつものようにオレに決まってるじゃねーか。なぁ、たいまつ召喚士?」
ブルーノは口ではそう言っているが、いつもの格好ではなく本気だった。
金色の全身鎧を装備して、ガチャガチャと金属音を鳴らしている。
「何だ、その鎧?」
「聞きてぇかぁ? これはなぁ、我が家に代々伝わる〝宝鎧シュタイアー〟だ。先祖様があのドワーフ族に大金を払って作らせたのよ。全世界に
昔、まだこの地域とも取り引きをしていたドワーフ族が、最高の産地から鉄を取り寄せ、ひたすらにハンマーで鍛え上げた鎧。
現代の技術では再現不能と言われている、最高級の逸品だ。
「コイツの防御力を見せてやるぜ……。召喚! キングレックス!」
ブルーノがキングレックスを召喚すると観客たちから歓声が上がった。
国の伝説ともなっているキングレックスの人気は高い。
「キングレックス、オレを攻撃してみろ」
『グォォオオン!』
キングレックスは躊躇なく、ブルーノを蹴り上げた。
そのまま吹っ飛んでブルーノは壁に激突。
観客たちは固唾を呑んで見守ったが――
「ははは! 全然痛くねぇぜ!」
何事もなかったかのように、ブルーノは中央に歩いて戻ってきた。
鎧も無傷だ。
「すげええええ!!」
「なんだあの鎧! 無敵じゃねーか!!」
「キングレックスの蹴りも強えぇ!!」
観客たちからウォォオオと、さらに大きな歓声が湧き上がる。
ブルーノは数千の視線を集めて高揚感を得ていた。
「どうだ、この〝宝鎧シュタイアー〟の凄さを見たか!!」
しかし、近くにいたライトは特に驚きもしないまま、あることに気が付いた。
「ブルーノ、表面の金色が落ちてないか?」
「こ、これは……キングレックスの足の汚れでそう見えるだけだぜ……」
ちなみに表面の黄金色は、あとからギリッシュ家が金メッキを貼り付けたモノである。
攻撃を受けると剥げ落ちてしまい、修復の手間が無駄にかかる。
「んなこたぁどうでもいい! 早くてめぇも召喚獣を出せ……。まさか未だに召喚獣の一つも持ってない状態でオレとやろうってのか?」
激昂するブルーノに対して、ライトはキョトンとしていた。
「いや、召喚獣は出せるけど、俺だけでも何とかなりそうかなって?」
「て、てめぇ……舐めてんのか。召喚獣を出さない相手に戦うと、またオレの評判が下がっだろーが!! もしかして、それが狙いか? あぁん!?」
「普通に戦って勝つ気でいるけど……。喚ばなきゃ戦ってくれないのなら仕方がないな……。召喚、蠱毒の王」
ライトの手の輝きが膨れあがり、二メートルを超える〝多種複合型昆虫モンスター〟――ギヨギヨが現れた。
湧き上がっていたはずの観客たちは静かになったあと、どよめきだした。
「な、なんだありゃあ……」
「一度もコロシアムで見たことがないタイプだぞ……」
「し、知っているぞ! アレは蠱毒の王だ! ベテラン冒険者たちのパーティーが何度も逃げ帰ってきている……!」
「噂に聞く蠱毒の王……それをあのオズは召喚獣にしちまったってのか!?」
観客たちが騒ぎ出した。
熱を帯びた数千の視線はブルーノではなく、ライトの方へ。
「あ、やばい。ギヨギヨだけ喚び出したとなるとリューナに怒られるな。幻想召喚!」
観客たちが固唾を呑んで見守る中、次に光の中から現れたのはマントで姿を隠したリューナだった。
強そうなギヨギヨのあとだったためか、期待外れとばかりに溜め息やブーイングがあがる。
リューナとしてはたまったものではない。
「あの、プレイヤー。喚んでくれたのは嬉しいのですが、いきなり酷い扱いです。しかも私……シャワーを浴びていたところなんですよ!? 身体を拭かずに急いで鎧を装着して、念のために姿隠しのマントを着てきましたが……!」
「いや、ごめん……ほんと急に喚び出してゴメン……」
そんなやり取りをしていると、解説が大きな声で騒ぎ出した。
『今、オズは人間を召喚しましたか!? ありえない……これはありえない……。最初の蠱毒の王だけでも信じられないのに、大召喚魔法である勇者召喚でしか成し得ない〝人体召喚〟をやってのけました! まさに規格外のチャレンジャー!』
なぜこんなに驚かれているのかわからなかったライトだったが、ポンと手を打った。
「ああ、そうか。幻想召喚以外だと完全な人間の姿をした召喚獣はいないから、異界から勇者を召喚する〝大召喚魔法〟と勘違いされたのか」
ウォォォオオオオオオオオオ!! と状況を理解した観客が大騒ぎし始めた。
数千人が謎の人物オズに興奮し、これからの一戦は伝説になるだろうと確信していた。
「――ッ、鼓膜が振動して痛い! 俺はあまり知らないけど、本当にコロシアムって人気の娯楽だったんだな」
「この異常な熱気……これは戦う相手がプレイヤーだから特別なだけかと……」
リューナは呆れながらも、ライトが自分を召喚してくれたことを内心喜んでいた。
そして、抑えきれないニヤニヤを浮かべながら告げた。
「さぁ、一緒に戦いましょうプレイヤー!」
「あ、ごめん。召喚しただけで戦うのは俺一人でやりたい」
「……えぇ~」
リューナは脱力して膝から崩れ落ちた。
それとは対照的に、ブルーノは怒りで血管をピクピクさせていた。
「たいまつ召喚士のクセに……舐めやがって……」
「ブルーノ、キミは今からその〝たいまつ召喚士〟にやられるんだけどな」
十六年間の因縁か、超高熱を帯びた二人の視線は火花を散らしているようだった。
『では、時間となりましたので試合開始です!!』
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