召喚士、花嫁を賭けた決闘を申し込まれる
「ソフィ……!?」
突然、元婚約者の少女――ソフィに抱きつかれたライトは、何も考えられなくて固まってしまった。
今まで意識したことのなかった密着しているソフィの柔らかさ、暖かさ、花のような香り、耳にかかる吐息。
それらを愛おしく想ってしまい、ライトも抱き締め返しそうになるが――
「う、ぐぐぐ……」
ライトは理性を保つことを精一杯努力して、震える手を御してソフィを遠ざけた。
ソフィはポカンとした顔をしたあと、ここが公衆の面前であることや、自分の今の立場に気が付いて赤面してしまった。
「そ、ソフィ……久しぶり……」
「えーっと……ライト、元気そうでなりよりだわ……」
とても初々しい二人だが、その間に激怒したブルーノが割って入ってきた。
「たいまつ召喚士、てめぇぇぇえ!! 人の結婚相手に何してくれてんだぁぁぁあああッ!!」
「い、いや……抱きついてきたのはソフィからで……」
「んなこたァどうでもいい! 全部てめぇが悪いんだ! いつもいつもいつもオレの……チクショウ!」
ブルーノは激昂して、ライトの襟首を掴んで顔面を密着させるくらい引き寄せていた。
目から火花がバチバチと出そうな勢いだ。
一方、それを離れて見ていたレオーが『可愛い系美少年と、スポーツマンイケメンが顔を近づけている。なるほど、これはご婦人方に好評そうなシチュエーションだ』と言ってるがスルーされていた。
「てめぇに決闘を申し込んでやるぜ……。負けた方は、勝った方の言うことを何でも聞くってルールでなぁッ!!」
「決闘か……」
ライトはブルーノの鼻息がうるさいと思いながら、しばし冷静な表情で考えた。
「あぁん? たいまつ召喚士ぃ、ビビっちまって声も出ねぇかぁ?」
ブルーノは本心からそう思っていた。
以前の弱々しいライトなら〝勝てないと理解して決闘を断って恥を晒す〟とも。
しかし――
「放せ。ソフィに少し聞きたいことがある」
「ぐっ!?」
ライトは以前にはない力強さで、ブルーノの太い腕を掴んだ。
ギリギリと骨が軋むような圧力がかかり、ブルーノは呻いて手を離してしまう。
「ソフィ、キミはブルーノと結婚したいのかい?」
「それは……」
ソフィは王族としての立場と、個人としての意思に板挟みされているかのように押し黙ってしまった。
ライトはそこから察して、答えを出した。
「いいだろう、ブルーノ。俺は決闘を受ける!」
「……公衆の面前で、てめぇをぶちのめして……オレのキングレックスが最強だと証明してやるぜ……!」
「俺がキングレックスを倒せば、その程度の相手とソフィが結婚する必要もなくなるな」
「ほざいてろ……! たいまつ召喚士のくせに!」
ライトとブルーノの前に、薄く笑みを浮かべた最高司祭がやってきて、ルールの取り決めなどを調整した。
「……では、女神イズマ様の名の下に、公平に決闘を行うように」
――勝負は明日、街のコロシアムを貸し切って行われる事になった。
すでに予定されていた結婚式の御前試合に割り込む形になるので、王族などもやってくるらしい。
勝負の形式は一対一。
装備や魔法に制限なし。
相手が戦闘不能になるか、降参するまで続けられる。
「墓でも用意しとけよ……たいまつ召喚士……!」
「……」
挑発をするブルートを背を向け、ライトはその場を離れた。
***
早足で歩くライトに、リューナが追いついてきた。
「プレイヤー……プレイヤー!」
「あ、うん。なに? リューナ?」
やっと立ち止まってくれたライトに、リューナは少し強めの語気で話しかける。
「あのソフィっていう人、初めてお会いしましたが……何か好きじゃありません……」
「ほぉ~、オレ様が思うに、リューナの複雑な乙女ごこ――ぐおっ、止めろ異次元空間に押し込むな!?」
リューナは無言でレオーをぐいぐい布の袋に押さえ付けながらも、不安げな視線を向けてきていた。
ライトはそれを見つめながら答える。
「リューナは心配なのか?」
「わ、私は別にそんなのじゃ……プレイヤーは勝つと思っていますし、プレイヤーのやりたいようにやればいいですし……私はただの幻想英雄で……」
「そうか、俺もソフィのこれからが心配だったから、この決闘を受けることにした。初代王のキングレックスに縛られたソフィは、ブルーノと俺以外の〝本当に好きな人〟と結婚してほしいからな」
「は……?」
リューナは目が点になった。
ライトが何を言っているのか理解するまで時間がかかった。
「えーっと、プレイヤーはソフィさんを取り戻すために決闘を受けたのでは?」
「うん、ソフィの自由を取り戻すために。そして、ソフィには自由に新たな恋を見つけてほしいんだ」
「……ちょっとプレイヤー、そこで耳を塞いでいてください」
「うん? いいけど?」
リューナは、少しは〝話〟が出来そうなレオーを顔の前まで持ってきた。
「おい、獅子人形」
「獅子人形いうな」
「えーっと、私の思い違いかもしれませんが、その……プレイヤーはソフィさんから嫌われているとでも思っているのですか?」
「どうも、そうらしいな。オレ様の見立て……いや、誰から見てもソフィの好感度はMAXにしか見えないがな」
「もしかして、プレイヤーは鈍感系キャラですか? いえ、そうでした。超鈍感系キャラでした。そういうジャンルのゲームから召喚された幻想英雄といわれても驚きませんね」
「オレ様、わかる~。つまり~」
可愛いライオンのぬいぐるみは、ゲスな表情を見せた。
「まぁ、プレイヤーを取られるかと心配していたリューナも、これで一安心だなぁ! ハハハ!」
「そ、そんなのじゃありません!」
赤面しそうになったリューナは、深呼吸で心を落ち着けてた。
そして、耳を塞いでいたライトの両手を掴んで、グイッと引き剥がして元気に一言。
「あ、明日は
恥ずかしさ、安堵、照れくささ、好意、応援が入り交じった複雑すぎる声だったが――ライトはそれを一蹴した。
「ん?
「は……?」
再び、リューナは唖然とした表情をするのだった。
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