召喚士、元婚約者と再会する
「お待たせした、若き英雄ライト。今回の依頼はモンスターを五万匹近く倒していて査定に時間がかかってしまったよ! 五万匹とは途方もない数字だなぁキミィ! ハハハ、五万匹!」
「ちょ、ゼイレムさん!? そんな大声で何回も!?」
冒険者ギルドのカウンターに出てきたギルド長ゼイレムは、わざと周囲に聞こえるように話しているようだった。
酒を飲んでいた冒険者たちがピタッと手を止めて、ライトに注目している。
「ランク7への到達はまだだが、大きなクエストをもう一つくらい達成したら……! ハハハハハハ! これは楽しみだぞ!」
英雄クラスのランク7の話題が出たことにより、冒険者ギルド内がざわつき始めた。
場合によっては一国の王よりお目にかかれない存在だからだ。
歩く伝説、人の形をした軍隊、意思を持つハリケーン。
そんな呼ばれ方をするような〝ランク7〟に到達しそうなのが、小柄な少年だという。
注目が集まるのも当然なのだ。
「い、いや~。俺、ご主人様の代理で報告しに来ただけなのに。本当にビックリだなぁ~」
ライトもわざと聞こえるような声量でウソを吐いた。
ゼイレムに顔を寄せて、ヒソヒソと会話をする。
「あの、ゼイレムさん。厄介事に巻き込まれそうなので、あまりランクのことは広めないで頂きたいのですが……」
「ほうほう? 私としては、このギルドから前代未聞の最速成長ランク7冒険者が出そうだと宣伝したいのだがねぇ……」
「宣伝は構いませんが、俺の名前とかは出さないでください。今までのように地道に努力して強くなりたいんです」
「……い、今までの努力が地道?」
ゼイレムは思わず聞き返してしまった。
命を削るようなやり方で強くなっているのに、それを地道と認識しているライトに恐ろしさを感じたからだ。
(こういう人間に敵対したら危険だ。それにランクが上の方になると常人と認識がズレている者が多いというのを思い出したぞ……)
ゼイレムはやれやれと折れるしかなかった。
「わかった。キミは架空のご主人様の使いでやってきた少年だ。ご主人様がランク7に到達しそう……ということにでもしておこう。ちょっと調べたらバレそうだがね……。そっちの少女もそんな感じで」
「はい、ありがとうございます。これからもこの冒険者ギルドを贔屓にさせて頂きます。協力できそうなことなら
「ほほう……
ライトは『余計なことを言ったかな……?』と思ったが、それは未来の自分に丸投げすることにした。
報酬の金貨を受け取って、冒険者ギルドでの用事は終わって一息ついたところで――
「さてと、ソフィに会うために王城に行かなきゃな。……でも、あそこを追い出された俺がどうやって王城にいるソフィと会うかが問題だな……」
困り顔のライトだったが、少し離れたテーブルから騒いでいる声が聞こえてきた。
「おい、そろそろソフィ様の花嫁姿のお披露目式があるみたいだぞ! 近くまでパレードがやってくるらしい! 早く行こうぜ!」
その冒険者たちが外へ走り出すのを見て、ライトもチャンスだと思いながら向かうことにした。
***
人混みに紛れて大通りにやってきた三人。
ライトはドラゴンローブのフード部分を目深に被り、レオーはリューナの布の袋から顔をヒョコッと出している。
「なぁ、オレ様の頭から下、何かフワフワして落ち着かないんだが。この袋の中はどうなっているのだ?」
「問題はありません。ちょっと命ある者が身体全体を入れてしまうと、精神崩壊してしまうという噂がある程度です」
「……マジ?」
「ハハハ」
「もしかして、オレ様がリューナのことを『アホの子』とか言ったことを根に持っているのか?」
「ハハハハハ」
リューナは笑うだけで答えず、抵抗するレオーをグイグイと押し込もうとしている。
一方、ライトはソワソワと落ち着かなかった。
第三王女の結婚は注目を集めているのか、かなりの野次馬がひしめき合っている。
その中でソフィとコンタクトを取らなければならないのだ。
「勢いでやってきたけど、この衆人環視の中でソフィに会うのは難しいんじゃ……。ブルーノはともかく、ソフィにも幻滅されて嫌われているだろうし……」
「そのときはそのときです! プレイヤーには竜の勇者である私がいるじゃありませんか!」
元気づけようとするリューナだったが、考え込んでいるライトにはその声が届かなかった。
レオーがポンッとリューナのわき腹部分を叩いた。
「鈍感なライト姫を召喚者として持つと大変だなぁ?」
「……うるさいです」
そんなことをしていると、遠くから大勢の従者を引き連れた集団がやってきた。
先頭は騎士団、その後ろに宮廷魔法使いたち。
それらに囲まれて進む、豪奢な馬車にブルーノとソフィ、それと最高司祭が乗っているのが見えた。
「ソフィ……」
ブルーノは上機嫌で観衆に手を振っているが、ソフィはただ俯いてしまっている。
ライトが久しぶりに見たソフィの印象は、長く美しい金髪も、純白のドレスも、可愛らしい顔も――すべて陰っているように感じた。
「い、行かなくちゃ……」
「プレイヤー!?」
ライトは観衆を掻き分けて、ソフィが乗る馬車の方へと進む。
考えなどない、衝動的なものだ。
「ソフィ……ソフィ……!」
「……未練たらたらじゃないですか」
リューナは小さく呟きながらも、ライトの背中を追った。
二人が人混みを抜けて大通り中央に飛び出したところ、当たり前だが護衛たちに警戒された。
「止まれ! 聖女姫殿下の御前であるぞ!」
「お、俺は……」
ライトはどう名乗れば良いのかわからなかった。
というより城から追い出されたのに、どの面下げればいいのかすらわからない。
ずっと考えてきたはずなのに、どんな風に声をかければいいのだろう。
何をしても拒絶されるというのは目に見えている、馬鹿げた行為だというのが頭をよぎる。
脚が動かない、思考が巡らない、呼吸が止まりそうになる。
しかし――
「ライトー!!」
予想外の事態が起きた。
ソフィは馬車から飛び出してきて、満面の笑みでライトに抱きついてきたのである。
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