Lv99召喚獣VSランク7モンスター『蠱毒の王』
久しぶりに洞窟の外へ出た二人は、眩しさに目を細めていた。
しばらくしてくると目が慣れてくる。
「ふぅ……一ヶ月ぶりの外の空気は美味いな」
「洞窟の中、かなりジメッとしていましたからね。保湿効果でお肌はツヤツヤになりそうなのは良いですけど」
「リューナ、そんなの気にしてたのか……」
リューナは、チラッとライトの肌を見た。
シミ一つない健康的でいて、きめ細かく吸い付くような肌だ。
薬草の浄化効果で老廃物すら出ていない。
(プレイヤー……綺麗すぎます……)
これで手入れなどはしていないらしい。
虫の体液の白濁とした汚れが、逆に艶めかしさすら感じさせる。
女神イズマの加護でもかかっているとしか思えない。
「そりゃまぁ……私だってプレイヤーの横にいたら気にしますとも、ええ」
ライトは言葉の意味がわからず頭にハテナマークを浮かべた。
リューナはそれっきり視線を逸らしたままなので、ライトは目的の〝蠱毒の王〟を探すことにした。
周囲はだだっ広い雑木林で、見回すだけでは見つかりそうにない。
「さてと、しらみつぶしに――」
「ぎゃあーーーー!!」
そのとき、遠くから叫び声が聞こえてきた。
「探す必要はなくなったみたいだな」
「ですね。向かいましょう」
ライトとリューナの二人は、叫び声がした方向へ走り出した。
立ち並ぶ針葉樹の間を縫うように移動しながら進むと、蠱毒の王に襲われている〝それ〟を見つけた。
「……何でしょうか、アレ」
「えーっと、叫びながら動くぬいぐるみ……かな? 種類はライオンに見えなくもない」
ライトは図鑑で見たことがあるライオンという動物を思い出していた。
そのライオンを丸っこくデフォルメして、二十センチくらいのサイズにしたぬいぐるみだ。
頭には王冠。逆立ったオレンジ色の髪が見えるので、たぶんオスだろう。
ライオンのぬいぐるみは、わめきながら蠱毒の王に追いかけ回されている。
不思議な光景すぎて二人は唖然としてしまう。
「うーん……どうしましょうか。プレイヤー?」
「どうせ、蠱毒の王で腕試しするんだし、ついでに助けてもいいんじゃないかな」
「了解しました。では――」
リューナは疾風のような速さで駆けだした。
ライオンのぬいぐるみ近くに移動して、蠱毒の王の前に立ち塞がる。
「久しぶりですね、蠱毒の王!」
リューナが剣を抜いて構え、以前より輝きを増した眼光を見せた。
『ギギギッ!』
蠱毒の王も戦闘態勢に入り、例の回避不能の五連撃を放つ。
「一ヶ月前は後れを取りましたが、今の私なら――!」
リューナの極限まで鍛え上げられた動体視力が、音速に達しそうな攻撃を見極めていた。
複数の方向から襲ってくるハサミ、尻尾、脚――そのすべてを把握する。
一撃目、盾で弾く。二撃目、盾で弾く、三撃目、弾く、弾く、弾く。
さらに蠱毒の王は追撃をしてくるが、それもすべて的確に弾いていく。
そして最後は――
「速い……ですが、それだけですね。こんなの一ヶ月間、全方位から攻撃し続けてきた大量の虫と比べればイージーモードです」
『ギィッ!?』
信じられないことに、リューナは素手で攻撃を掴んでいた。
それも人差し指と親指だけで白刃取りをしているようだ。
「おいおい、リューナ。俺にも戦わせてくれよ?」
「了解しました、プレイヤー」
リューナは指をパッと放す。
蠱毒の王はたたらを踏んで後方へ下がり、一ヶ月前とは比べものにならないほどの強敵を警戒している。
「いくぜ、蠱毒の王」
ライト自身はレベルが上がったわけでもないので、リューナのような強化はされていない。
ダメージを食らえば致命傷を受けるだろうし、攻撃を受け止められるほどの腕力もない。
しかし――
『ギギッ!』
蠱毒の王が放った五連撃を〝経験〟で華麗に回避した。
蠱毒の洞窟の中での一ヶ月――いや、体感時間では半年以上も死線をくぐり抜けてきているのだ。
虫の視線、殺気の方向、関節の動かし方……とすべてを瞬時に把握している。
もはやライトは、蠱毒の王相手に思考加速すら使わずに、赤子を相手取るように翻弄している。
『ギ……』
それでも蠱毒の王はギリギリ冷静さを保っていた。
相手に当たらなくても、自らの頑強な甲殻が破られるはずないと確信していたからだ。
以前のライト相手ならそれで正しかったのだが、今はもう違う。
「……【プレイヤー共有スキル:
それはリューナが覚えた攻撃系スキルだ。
思考加速と同じようにライトにも使える。
「見えた……ッ!!」
蠱毒の王の背後に回り込んだライトの目は、常人には見えない輝く光点を捉えていた。
手にしたナイフでそれを浅く突く。
『ギィィィィィ!?』
中途半端な頭の良さから慢心してしまっていた蠱毒の王は激痛に叫びを上げた。
全身を強固な甲殻で覆っていると思っていたのだが、背中の一点にだけ魔力強化していない柔らかい部分があったのだ。
ライトは不思議と見えるそれを見つけ出して、弱点攻撃を決めていた。
これが【プレイヤー共有スキル:奇跡の一撃】だ。
「俺の勝ちだな」
蠱毒の王は動けなくなり、勝者であるライトの顔を見つめていた。
そこには今までの人間と違い、勝利の愉悦も、敗者への侮蔑もない。
猛者と認めた相手へ送る、称賛を込めた爽やかな少年の笑顔だった。
「プレイヤー、トドメを刺さないのですか?」
「うん。戦いに付き合わせちゃった俺たちが悪いし。薬草を――」
「だと思いましたよ」
リューナは、ライトが求める前に薬草を投げていた。
ライトはそれを受け取ると、蠱毒の王に使って傷を癒やした。
『ギギ……』
蠱毒の王は人間っぽい仕草で首を傾げて『どうしてだ?』と言わんばかりだ。
「自分から人間を襲わないのなら、たとえモンスターでも俺たちの敵じゃない」
その言葉を理解したらしい蠱毒の王は、大声で言葉を発した。
『スギョイ!』
「「喋った!?」」
驚いて思わずライトとリューナが声をハモらせた。
蠱毒の王は虫特有のスピードで頭を上げ下げして、ライトに敬意を示していた。
そして、ライトとの間にまばゆい光が発生して、周囲を包み込む。
「こ、これって……召喚獣契約のときに出る輝きじゃ――」
『スギョイ!』
蠱毒の王も光に驚いたのか驚いていないのか、それとも――それしか話せないのか。
そのままピョンピョンと、どこかへと去って行ってしまった。
「俺、ランク7モンスターと契約してしまった……のか?」
ライトは自らの中に繋がった、新たな召喚獣の絆に顔をにやけていた。
「……プレイヤー。私が一番最初なんですからね? 虫に嫉妬するわけではないのですが、それはお忘れなくですよ?」
「も、もちろん」
リューナの嫉妬は可愛げのあるものではなく、武人としての序列のようなものらしく、眼光で射殺すような凄みがあった。
ライトは震えながら頷くしかない。
「名前も蠱毒の王とか大げさなので、そうですね……『ギヨギヨ』とでも呼びましょう」
「あ、ああ……うん……」
名前のセンスが壊滅的だと口から出かかっていたが、ライトは我慢した。
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