召喚士、金の力で畑を作る
「こ、こんなに大量のトツゲキウリボウを狩ってくるなんて……!?」
村に帰ってくるなり、獣人たちに驚かれてしまった。
やはりリューナたち――幻想英雄というのは規格外の存在なのだろう。
ライトは自分の元にいてくれる二人に感謝しつつ、獣人に提案をした。
「すぐ食べる以外の肉は、塩漬けで保存できるようにした方がいいと思います。獣人のみんなには加工を協力してほしいです」
その言葉に、獣人たちは顔を見合わせた。
村を取り仕切っているド・シュナウが代表で意見を述べてきた。
「ライトさん、塩漬け肉は大量の塩が必要になります。ワシらにそんな塩はないのですじゃ……」
「それなら大丈夫。塩は畑から採れますから」
「は……?」
呆然とするド・シュナウを置いて、ライトたちは畑へ移動した。
相変わらず、見るも無惨な畑の光景が広がっている。
「さてと、それじゃあ畑なら、あたしの出番――」
「ちょ、ちょっと待つのですイナホ! その前に私の報告をさせてください! イナホが畑で無双をしてしまうと、私の報告が薄れそうですから……!」
「えぇ……そんな理由で……。まぁ、いいけど」
イナホの話を遮ったリューナは、割と必死そうだった。
その理由は、イナホも意外とモンスター相手に戦えてしまったからだろうか。
ライトとしては、それぞれ特化するものが違うので、気にしなくていいと思っているのだが。
「プレイヤー、あなたのリューナが先ほどの戦闘でレベル30になりましたよ?」
「あ、ああ……おめでとう」
「新たな魔法を覚えました」
リューナはそれを報告したくてウズウズしていたのだろう。
ライトとしても、今まで覚えたものが強力だったので、興味が湧いてくる。
「どんな魔法なんだ?」
「【移動魔法:ブクマール】です! これを使えば、まるでブックマークのように、一度立ち寄った場所――つまり印象深い目印ある〝街〟などに瞬間移動できます!」
「瞬間……移動だと……!?」
現状の魔法でも空を飛ぶ程度のことはできるが、瞬間移動という強力なものは存在していない。
古代の貴重な転移装置が残っている場所同士で、ようやくというところだ。
その転移装置も国家レベルの緊急事態しか使えない。
それなのに遠くの場所、しかも個人が自由自在に瞬間移動できる魔法なんて、常識や物流のすべてをひっくり返してしまうだろう。
「す、すごいじゃないか、リューナ!」
「いや~、それほどでも……ありますかね! えへへ!」
「それじゃあ……たとえば今から街の冒険者ギルドに瞬間移動することもできるのか?」
「はい、可能ですよ。距離は関係ないので」
この〝ブクマール〟を使えば、物の値段が違う場所で、安く買って高く売るというのを繰り返すだけで億万長者になれるだろう。
チートのようだが、物流を制すとはそういうことだ。
「あ、ただ注意点があって……」
「注意点?」
「室内で使うと、物凄い勢いで天井に頭をぶつけて死にます」
「……え?」
ライトがイメージしていたのは場所から場所へ、パッと消えて空間転移する魔法だ。
一方、リューナの〝ブクマール〟は超高速でビューンと空を飛んで目的地に辿り着く魔法。
つまり――
「あ、途中、飛んでる鳥にぶつかっても防御力が低いと死にます。注意点はこれくらいですかね。さっそく試してみますか? プレイヤー!」
「ハハハ」
ライトは爽やかな笑顔を見せたあと、ぎこちなく首を動かしてリューナから視線を外した。
「よし、イナホ。畑を頼む」
「――ちょっと、プレイヤー……。露骨に話題を変えないでくれませんか!? 運が悪くなければ、プレイヤーの人体だって空中分解しませんって!」
リューナは、ライトの顔を強引に引っ張って向かせようとしているが、目線は合わなかった。
イナホがボソッと呟いた。
「RPGで一般人が使ってないのは、バードストライクに耐えられないからだったのか~……」
バードストライクとは、飛行機が鳥と衝突するアクシデントのことを指す。
現代っ子のイナホならではの理解である。
「さてと、それじゃあ畑を耕しちゃいますね。オーナー」
「ああ、頼んだ」
イナホは、トツゲキウリボウで大量に手に入ったゴールドの一部を消費して、虚空からクワを取りだした。
小さな手でクワをしっかりと握りしめ、塩害でメチャクチャになっている畑に向かって振り下ろしていく。
「おぉ……見事です。使い慣れたクワのフォームも華麗なのですが、土を混ぜて不純物を取り除いているスキルは、さも畑を蘇らせているようです……」
不機嫌そうだったリューナですら感心していた。
イナホがクワをサクッと土に入れると、綺麗な塩の結晶がキラキラと空に舞い上がって、ポケットの中に吸い込まれていく。
畑を耕しているだけなのに、とても幻想的な光景だ。
明らかに硬そうだった土も、心なしかフンワリとしてきている。
畑が再び生を受けた瞬間だ。
周りで見物していた獣人たちも感動していた。
「あ、あの塩の大地が……!」
「イナホ様は……豊穣の女神様の生まれ変わりに違いねぇ……!」
イナホ当人としては、そんな風に評価されても恥ずかしいだけだった。
「うっへぇ~、変な汗が出てきた……。早く終わらせよっと……」
次に潤沢なゴールドを使って、作物の種や苗、肥料を取りだした。
「すでに獣人さんからリサーチしておいた、この世界で売れそうな物を選んだよ。今回は急ぎだから、肥料を使って品質と育成期間をチートしちゃうね。数時間後には、もう収穫できるくらいになってると思う」
疲れ知らずで手際よく苗を植え、種をまき、肥料入りの水を撒いていった。
こうして自給自足分の食料、それにある程度は出荷できる量を確保した。
次々と披露されるイナホの凄まじいスキル――だが、それには魔力消費という代償が必要だった。
「どう? 人間であるオーナーの命令でやるのは癪だけど、あたしはきちんと……って、オーナー!? どうしたの!?」
ライトはすべてを見届けたあと、土気色の顔をして倒れていた。
それと同時に最悪の知らせが入ってきた。
遠くから慌てて走ってきた獣人が声を荒らげる。
「た、大変だ! 明日、領主が三百人の兵を率いて村を攻めてくるらしい!」
現状……村の戦力は、力が出せなくなった幻想英雄二人と、非武装の獣人が数十人しかいない。
――その差は絶望的だった。
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