召喚士、森でモンスターを倒しまくる

「この数時間で廃村の焼け跡が、立派な村に……!?」


「うおー! 久々にちゃんとしたベッドで寝られるぞ!」


「お家だ~! パパとママと一緒に住める~!」


「ありがとう、イナホさん! ライトさん!」


 家の完成に獣人たちは大喜びだった。

 礼を言われた二人は感謝され慣れていなく、頬を染めて照れてしまう似たもの同士だった。


「え、ええっと、ほとんどイナホがやったことだし……な!?」


「……べ、別にキッカケを作ったのはオーナーであって……あたしは獣人さんのために当然のことをしただけだし……」


 リューナはジト眼をしながら突っ込んだ。


「お二人、いつの間にか仲が良くなっていませんか? 森で何かあったんですか……? もしや、私がいない間に楽しく経験値稼ぎですか?」


 ライトは、のけ者にされて不機嫌オーラが出ているリューナから顔を背けた。

 話題を別に移したい気持ちが強い。


「そ、そういえば――」


 ライトは周囲を見回した。

 綺麗に並んだ家々は素晴らしい――のだが、何かが足りないと思ってしまった。

 口元をペロリと舐めると、甘い野いちごの味がした。

 そこから連鎖した思考が湧いてくる。


「ん~、そうか……食べ物。これから生活するためには畑が必要なのか」


 雨風をしのげても、これからずっと持ってきた保存食で暮らすというわけにもいかない。

 自給自足分の畑も必要だし、余剰分は売って金にすることもできる。


「イナホ、畑は作れるか?」


「うーん……、オーナーの手持ちゴールドに限りがあるし、土の状況次第かな」


「わかった。畑だったところを見に行くか」


 この廃村は、以前は農業もやっていたらしい。

 まともな形では残っていないだろうが、念のために見に行くことにした。




 辿り着いた三人が見たものは――


「こ、これは……ひどいな……」


「袋ごとって、バカじゃないの……」


 無残に踏み荒らされて枯れた植物、土には雑に倒されて中身が出ている塩の袋。

 それは塩土化された畑だった。


「塩の袋……? なぜ、このようなことを?」


 戦闘知識ばかりのリューナは、畑に撒かれた塩の意味がわからずに首を傾げていた。


「塩土化――つまり、畑に塩を撒いて作物が育たないようにする行為だ。俺もそこまで詳しくは知らないけど、こうなったらお終いだろう……。本来は地主へ刑罰などで行われるくらいだし……」


「ご名答、オーナー。まともな作物は育たないし、この量じゃ雑草すら生えてこない」


 専門家であるイナホがそういうのだから――と、ライトとリューナの表情に暗い影が落ちた。


「でも、オーナー。ラッキーだよ」


「え?」


「塩なら素材として分離できる」


「そうか……その手があったか」


 その言葉にライトは思い出していた。

 イナホは焼け焦げた家から、新品同様の木材を抽出していたのだ。

 それを使えば、畑から塩だけを抜くこともできるだろう。


「斧……でもできなくはないんだけど、クワを買いたいかな。こっちの方が広範囲の土に影響を与えることができるもの」


「つ、つまり……?」


「お金、ちょーだい! 他にも必要な物があるし」


「ゴールドかぁ……。イズマ王国の金貨じゃ代用はできない……よな?」


「むり~。ドロップするゴールドは特別な力を持っているからね」


 現在、手持ちのゴールドはゴブリンたちを倒したものしかない。

 イナホが想定するクワ+αの購入金額には足りないのだろう。

 ゴールドと聞いたリューナは、耳をピクッと動かして、首をグイッと向けてきた。


「私の出番、やっと来ましたね! さぁ、ゴールドを稼ぎましょう! 経験値も稼ぎましょう! プレイヤー!」


「あ、ああ……」


 ライトは若干付いていけないテンションだったが、リューナは村に来てからずっと活躍の機会がなかったのだ。

 それくらい温かい目で見守ってやろうと思った。

 ……しかし、獣人の村にいるからか、散歩に連れて行けと言っている大型犬に見えた気もした。




 ***




 三人は森にやってきていた。

 今度は木材を採った位置より、野生動物やモンスターが潜んでいそうな深いところだ。


「プレイヤー、つい勢いで私も来ていますが……村の守りは平気ですか?」


「イナホに頼んで物見櫓を作ってもらった。何かあれば鐘を鳴らして知らせてくれる手はずだ」


「なるほど。それならすぐに戻ることもできますね」


「ちなみに鐘は大鍋を加工して作ったのだ。えっへん」


 そんなことを話していると、ライトの時間が急に止まった。

【プレイヤー共有スキル:思考加速ターンスイッチ】が発動したのだろう。

 今回は見える位置にいる、トツゲキウリボウという猪型のモンスターだ。

 サイズは大人の股下くらいで、豚のような鼻をヒクヒクさせている。

 この地域では割とポピュラーで、倒しやすく肉が美味い。


(うーん、このスキルは有り難いんだけど、どんな状況の敵にも反応しちゃうのか。弱い相手だと少し面倒くさくもある……)


(プレイヤー。設定をイジって一定以下の脅威判定には使用しないようにできます)


 ライトのぼやきに、リューナが答えてくれた。

 さっそく、設定を言われた通りに変更してみたら、直後に時が動き出した。


「これで何にでも発動することはなくなったか」


 ライトはホッとしたが、今度はイナホの視線を感じた。


「……オーナー、今……時間が止まってなかった?」


「ああ、リューナのスキルだ」


「ふぇぇ……あたしなんかよりリューナやばい、すごい……。時間停止って本当にあったんだ……」


「俺も最初は驚いたよ。でも、イナホだって同じくらいすごいと思うけど」


 そう言われたイナホは、ブンブンと首を振った。


「い、いいえ! さすがに国民的な人気があったリューナとは、比べちゃダメ……!」


「リューナって、日本という場所じゃそんなに有名だったのか?」


「うん……!」


 トツゲキウリボウの集団に斬りかかっていくリューナを眺めながら、イナホは答えた。


「RPGというジャンルのトップを走る、国民の誰もが知る存在……」


「そうだったのか」


「ま、まぁ……あたしもそれなりの知名度だと思うけど」


 それを聞いてライトは仮説を立ててみた。

 神や精霊などは、人々の信仰や知名度があればあるほど強力になると言われている。

 実際に国の名前にもなっている女神イズマの加護は強いし、逆に忘れ去られた神の加護は効果が薄くなる。

 リューナやイナホがこれ程までのスキルを持っているのは、もしかしたら日本という〝異世界〟で多大なる知名度があるからなのでは――と。


「さてと、それじゃあ……あたしも戦うかな」


「え? イナホが?」


 イナホは返事の代わり斧を構えた。


「オーナーは顔色が悪いし、そこで見てて。ジャマだし」


 そう屈託なく笑うと、リューナがいる戦線へ飛び出していった。

 さすがにリューナには及ばないが、斧を振り回して見事にトツゲキウリボウを倒している。

 ライトは安心して、二人を見守ることにした。


「……というか、もう立っているのもやっとだな」


 イナホのスキル使用よりはマシだが、それでも戦闘によって魔力消費が上がっていた。

 魔力の自然回復が追いつかず、相当に無理をしている。


 ――結局、今回の狩りは、手つかずの森で繁殖しすぎていたトツゲキウリボウを百匹近く倒す結果となった。

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