召喚士、時間を停止させる
「……ランク1の俺とリューナが、いきなりランク6にアップってどういうことですか?」
状況が飲み込めないライトに、乱れた金髪オールバックのゼイレムは冒険者証明書を指差した。
「ここにゴブリンの巣を二人で掃討したという記録が残っていた。それだけでもランク2か3にアップしてもいいくらいだろう」
二人で――ということは、ライトとリューナの召喚による関係で共同作業という認識になっているのだろう。
つまり、リューナが倒したゴブリンは、ライトが倒したものでもあるのだ。
「しかし、今回は特別な敵が混じっていた」
「……特別な敵?」
「キミはゴブリンキングを知っているかね」
「いえ、名前くらいで詳しくは……」
「ゴブリンキング。ゴブリンたちを束ねる王。通常、ゴブリンは小さな群れを作る程度なので、討伐ランク2~3と低い。だが、王が現れたのなら別だ。国を作り、軍隊を作り、人間の国を侵略する」
話の規模の大きさにライトはゴクリと生唾を飲み込んだ。
「実際、小国が一つ滅ぼされた。それをやったのがゴブリンキング〝グアゾ〟だ。たった数匹の集団から、数千の軍団に膨れあがったそれは……まさに脅威だった。高ランク冒険者たちが集まって殲滅していったのだが、グアゾだけは取り逃がしていてな」
「も、もしかして……」
ライトは思い出していた。
ゴブリンの巣で、気絶していた空白の時間があったことを。
「二人でゴブリンキング〝グアゾ〟を倒した記録があった。お手柄だ。あのまま放置していれば、付近の村……いや、イズマイール王国は滅びていたかもしれない」
寝てましたとは言えないライトは、チラッとリューナに視線を送った。
「そういえば、ヤケにデカくて強いゴブリンが一匹いましたね。ドロップが毒消し草だけだったので、ケチくさいザコと思っていましたが」
色々と突っ込みたかったが、目の前にギルド長のゼイレムがいるので我慢した。
「おぉ……あのグアゾをザコ扱い。やはりランク6に値する冒険者のようだ。あとで賞金首グアゾにかけられていた大量の金貨と、冒険者ギルドから特別報酬を出そう。これからも頼むぞ、若き英雄たちよ」
ゼイレムは、二人と熱い握手を交わしたあと、二階へ戻っていった。
ライトはぎこちなく首を動かし、リューナの方へ振り向いた。
「俺が気絶している間に……」
「私はプレイヤーに召喚されたのですから、私の手柄はプレイヤーのものです」
「た、たしかにそうかもしれないけど」
「絶え間ない鍛錬で手に入れたであろう、己が魔力量と制御力を誇って良いんですよ。たぶん、普通の召喚士が強力すぎる召喚獣を喚ぶと暴走させてしまうと思いますから。強力な分、下手をすれば呪いを振りまく存在になりかねません」
自ら呼びだした者に諭されるのは癪だが、ライトの過剰な謙遜を指摘するような言葉でもある。
ライトは溜め息を吐きながらも、現状を受け入れることにした。
「実はもう一つ、プレイヤーが気絶している間に覚えたスキルが――って、おや?」
――そんな中、ギルドの外が騒がしくなっていた。
「誰かが揉めている……?」
怒鳴る声と、何かを懇願するような声が聞こえてきた。
「あぁん? この宮廷召喚士でもあり、冒険者ランク4のオレに依頼しようってのか? テメェら人モドキ種族がぁ……?」
「そ、そこを何とかお願いします……。もう他に誰もクエストを受けてくれる冒険者がいなくて……」
その声には聞き覚えがあった。
ブルーノである。
正直、キングレックスの魔石を横取りされたトラウマで会いたくはない。
心の弱い部分が逃げろと叫ぶ。
しかし――
「うるっせーなぁ! オレは今イライラしてんだ! 召喚獣でぶっ殺してやろうか!?」
召喚獣で一般人を攻撃しようとしているのは見過ごせない。
リューナも真っ直ぐな眼で見つめてきている。
早く一緒に行こうと。
ライトはもう一人ではない。
勇気を振り絞り、ギルドの外へ走った。
「止めろよ、ブルーノ」
「ライト……テメェこんなところに居やがったのか」
血管を浮き上がらせて怒りの表情を浮かべているブルーノがいた。
身長は190程度あり、小柄なライトを見下すような形になっている。
スポーツマンのような筋肉質の体格に、逆立てた金の短髪が特徴的だ。
着崩した宮廷召喚士のローブが筋肉で盛り上がっている。
ちなみにブルーノが冒険者でもあるのは、大体の召喚士が訓練も兼ねて冒険者ギルドに登録しているためだ。
「ジャマすんな。オレはそこの獣人が人間様の言葉で話しかけてきたから、拳で躾けてやろうとしてるだけだぜ……」
「獣人……?」
ブルーノが指差した先に、兎耳のある子どもがいた。
丸くなって、プルプルと震えている。
「一発顔を殴って鼻を折ったら、縮こまっちまった。もう数回殴れば人間様の街にはやってこなくなるだろうぜ!」
獣人とは、この世界にいる少数民族のことである。
外見に獣の特徴が混じっていて、古くは人間と敵対したこともある。
今はもう、敗者の種族として伝わっており、迫害の対象になることが多い。
「獣人ならよぉ、人間の法律は適用されねぇだろう? 殴って何が悪いんだ?」
ブルーノは狂気に満ちた眼だった。
それは、ライトにいつも向けられていた弱者を
怒りがこみ上げてくる。
しかし、その怒りはライトだけではなかった。
「こんなに小さな子に酷いことを……。あなた、それでも召喚獣を従えし誇り高き者ですか……!?」
白いワンピース姿のリューナが、ブルーノの目の前に立っていた。
相手との体格差をモノともせず、凜とした勇者の表情だ。
ブルーノはその姿をじっと見て、そして――
「か、可愛い……オレの女にならねぇか……?」
一目惚れしていた。
身近にいるライトは気付いていなかったが、リューナの美しさは幻想的だったのだ。
普通の男性が視線を向けられれば、こうなるのが普通である。
「お断りします。私は
リューナが言い放った言葉は事情を知らない者が聞けば、ライトの恋人宣言である。
ブルーノは顔を真っ赤にして激怒した。
「ライト……テメェ……。いつもいつもいつもオレの欲しいモノを与えられやがって……」
ブルーノは拳を上げようとするが――
「おぉ! あのローブは宮廷召喚士様だ!」
「すげぇ、初めて見たよ」
ざわざわと観衆が騒ぎ出した。
集まってきた周囲の目があるために、ブルーノは一先ず我慢した。
「ま、まぁ……冒険者ランク4のオレはこんなことで手を上げたりはしねぇ。聞いた話じゃ、ライトはゴミみてぇな冒険者ランク1らしいからな」
ライトは内心ホッとしていた。
このままなら、無益な争いは起きないだろう。
それにブルーノの近接戦能力は非常に高く、ライトが勝てるはずもない。
すると――リューナが真顔で言い放った。
「ライトは冒険者ランク6ですよ。ゴミはブルーノ、あなたでは?」
「ライトォ!! やっぱり、テメェは許さねぇ!!」
「リューナが煽ったのに、俺!?」
ブルーノの鍛え上げられた肉体から放たれる、超高速の拳がライトの顔面に――
(あれ?)
届いていなかった。
正確には、
ライトの目の前のウインドウに表示されていたのは、見慣れないスキルだった。
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