第二章 獣人開拓村の森
召喚士、竜の勇者に服をプレゼントする
ライトとリューナの二人は、ゴブリン退治の報告のために街にやってきていた。
このリールという街は王都からほど近く、しっかりと道が整備されていて活気に満ち溢れている。
鍛冶ギルド、裁縫ギルド、そして目的の冒険者ギルドなども揃っているくらい大きい。
二人が歩く目抜き通りも人が多いのだが、何か視線を感じる。
「うーん、どうやらリューナが目立っているようだな……」
「そ、それはもしかして、私が可愛――」
「やっぱり、街の中では着替えた方がいいかもしれない。リューナの鎧のレア度が高すぎて目立つようだ。……って、どうしたんだ、リューナ? 急に不機嫌な顔になって?」
「何でもないです」
リューナのブルーメタルに輝く鎧は、非常に珍しい素材だ。
たぶんこの世界には存在していない。
装備している者のレベルに合わせて自動的に強くなる、最終装備ともいえる。
「目立たないように装備を外しましょうか? 私の魔力で再現されている物なので、その気になれば一瞬です」
「そうした方がいいかもしれない。その外側の装甲部分だけでも――」
「いえ、全装備外して一糸まとわぬ姿になるか、付けるかの二択しかできません」
「……えーっと、部分別というのはできないの?」
「プレイヤー。私のステータスを思い出してください。きようさが物凄く低いでしょう」
「ああ、そういえば」
自慢げに言われてしまった。
たしかにレベルが上がっても、ステータス画面できようさが上がっていなかった。
「あ、でも身体装備を外して、武器だけ持つとかなら今すぐ可能です!」
「憲兵さんに捕まるから止めて~……」
「この世界は色々と面倒ですね」
ついでにかしこさも上がっていなかったが、そちらは言わないでおくことにした。
このままでは目立ってしまって冒険者ギルドに行きにくい。
「うーん……。まだエイヤとの合流まで時間もあるし、先に服を買おうか」
幸い、裁縫ギルド直属の服飾店も多い場所なので、良い品が手に入りそうだ。
ライトは以前入ったことのある、少し高級な店にやってきた。
広い店内は華やかな女性向けの服が飾られている。
「昔、ソフィに連れられてきたときと変わってないな」
「……ソフィ? どなたですか?」
「婚約者……だったんだけど、たぶん愛想を尽かされてしまったよ。今はきっとブルーノのところかな……」
「そうですか。プレイヤーも色々あったんですね」
思い出すと、ビターチョコのように苦い味がする。
リューナはそれを察して、話題を変えようとした。
「さて、それでは私の服を選んでください」
「えっ、いや……俺は女の子の服なんて……」
「いいんですか? 私の服のセンスは致命的ですよ? ステテコパンツに鍋の蓋でも冒険しちゃいますよ」
「ステテコパンツに鍋の蓋……。是非、選ばせて頂きます」
まだ十六歳のライトは頭から煙が出るくらい考えた。
男の服なら普段着にシャツ。
城などのフォーマルな場所では高級なシャツ。
とにかく男だったらシャツでいいような気がする。
一方、今は女性服だ。
これまでの人生で女性服は視界に入っていたはずなのだが、まったく興味がなかったので覚えていない。
とりあえず、店内にある物を物色してみた。
シンプルなシャツ――これはプレゼントして喜ばれるものなのだろうか。
もう少し華やかな方がいい気がする。
舞踏会用の黒いドレス――街を歩くと無駄に目立ちそうだ。
セクシーな赤い肩出し服――却下。
少年に女の子の服選びは難しい。
悩み抜いた結果、ふと、あることを思い出した。
以前、ソフィが買っていた白いワンピースだ。
それと同じ物を選んでみた。
「こ、これがいいんじゃないかな」
「爽やかでいいですね。プレイヤー、意外とセンスがあります。早速、着替えてきますね」
何か複雑な心境だし、同じ服を選んだというのをソフィに見られたらどう思われるかわからない。
いや、今のソフィはもう何とも思ってくれないだろう。
そう寂しくなる気持ちもある。
「プレイヤー、着替え終わりました。まぁ、どうせプレイヤーは興味を持ちそうにないですが――」
更衣室から出てきたリューナは、白百合のように可憐なワンピースを身に纏っていた。
いつもの鎧姿とのギャップで小柄に見える。
まるでソフィのようだ。
「可愛いと思う」
「えっ!?」
予想外の返事にリューナは戸惑った。
てっきり、いつものように異性に興味のない少年らしい言葉が飛んでくると思っていたのだ。
「ぜ、全然可愛くないですよ!」
「そうか? 可愛いと思うけど」
ライトは、ソフィが選んだ服だから可愛いはずだと確信していた。
「な、なんで今だけそんなにグイグイ来るんですか!?」
「可愛いから可愛いって言ってるだけだろ」
リューナは今まで勇者をしていて、女の子扱いされたことがなかったので大混乱していた。
急激に恥ずかしくなって、更衣室のカーテンにくるまって隠れてしまう。
「リューナ……?」
「し、しばらく……こうさせてください……」
首を傾げるライトだったが、別の問題があることに気が付いた。
「あ、しまった。手持ちがない」
元々、宮廷召喚士団長の息子として裕福な暮らしをしていたライトは忘れていたが、今は先立つ物がないのだ。
とてもではないが、この高級店の服など買えない。
「それなら大丈夫ですよ。私がゴールドで払います」
「ゴールド?」
それは聞き慣れない言葉だった。
「これです。モンスターからドロップする、どこでも使える万能通貨です。ゴブリンを倒したときに入手しておきました」
リューナがジャラリと取りだしたのは、見たこともない貨幣だ。
この地域で流通しているイズマ金貨とも違う。
「モンスターを倒したら自然発生する怪しい通貨が、使えるはずは……」
「百ゴールドのお支払いですね。ありがとうございました」
「……え?」
すでにリューナが、店員にゴールドを渡して使用していた。
さも当然のように支払い完了の場面を見せられた。
ライトは目が点になる。
「ほら、万能通貨でしょう? 何か不思議とどこでも使えちゃうんです。結構な額があるので、プレイヤーは小金持ちですよ」
「どういう原理なんだ……スキル効果による催眠なのか……? 経済を混乱させそうだから、緊急時以外は使わないようにしよう……」
「え~。これからも経験値稼ぎのついでにゴールドがどんどん溜まっていくのに」
いくら大金を得たからといって、出所のわからない通貨を流通させまくるとイズマイール王国が傾く予感しかしない。
あと『何か不思議と』ですんなり使えてしまうのが怖い。
RPG世界の常識、恐るべし。
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