第4話 働く場所が見つかったようです!
「それにしても、外観もよかったけど内装もすごく綺麗な場所だね」
「そうでしょ?私とロマノフ、あともう一人でここのデザイン考えたんだ〜」リノはまた自慢気に胸を張る。
実際に張れる胸がありでもしたら、免疫のない僕はきっと赤面してしまう。
もしそのことがリノにバレでもしたら、また思い切り笑われてしまうので、ここはリノの今の体型に感謝することにする。
リノにバレないところでわりと、いやかなりひどい事を考え、その事を振り払って会話を続ける。
それにしても店のデザインを一緒に考えた、か。
ここに来たときのリノに対するロマノフの暖かい視線を考えても、二人はとても親しい間柄らしい。
「リノとロマノフってどういう関係なんだ?見てるとすっごいおじいちゃんと孫って感じに見えるけど」
「そんな感じかな。ロマノフは私の両親の恩人で、私が生まれた頃からおじいちゃんみたいに面倒を見てくれてたんだ」
「へぇ、そんなことがあったんだね。そう言えば—————」
「お待たせしました。海老のクリームシチューでございます」ロマノフが、いい匂いを撒き散らしながら、僕とリノに料理を持ってきてくれた。
料理は海老を中心に、たくさんの野菜も使われたクリームシチューだった。
緑、オレンジ、赤の野菜は、しっかりと煮込まれていてわずかに蕩けている。
メインの具材である海老は、綺麗な赤の模様と白い身にシチューのルーを纏って光沢感を出しており、今朝から何も食べていない僕の食欲を猛烈に刺激した。
クリームシチューの注がれた皿が乗ったトレイには、パンも乗っていた。
どうやらこのパンをシチューに浸して食べるらしいが、そのまま食べても美味しくいただけそうだ。
焼き立てのようで、何等分かされたパンの断面からはバジルの香りと、バターの甘さが湯気に乗って飛び出し、僕の鼻腔をくすぐる。
「どうぞ召し上がれ。当店自慢の海老のクリームシチューに備え付けのパンと一緒にをお楽しみください」
ロマノフは、いつもの営業スタイルか、店員と客といった口調で僕たちに食べるよう促す。
店の主人がそう言うのだ。
食べるのを我慢する理由はない。
「「いただきます」」
僕とリノは口を合わせてそう言い、手を合掌の形にしてシチューの具となった食材たちに感謝を示す。
小切にされたパンを手に取り、お椀に注がれたシチューに浸してそのまま口に運ぶ。
シチューがパンに程よく絡み、シチューの甘さの次に、パンに練りこまれたバジルの香りが鼻を突き抜けて朝でも重く感じず、爽快感のある一口だった。
次にシチューだけを木で作られたスプーンで掬って食べる。
パンと併せて食べるのとは違い、シチュー自体の旨味と煮込まれた野菜本来の味がとても身に染みる。
朝の冷気で少し冷えた体を、いい感じに温めてくれた。
半分ほど頂いたところで、目の前に座るリノを見ると、僕と同様に美味しそうにシチューとパンを口に頬張っていた。
その姿はとても幸せそうで、見ている僕まで嬉しい気持ちが湧き上がってくる。
朝からいいものを見れたな・・・。
ゆっくり味わって食べたいところだが、もたもたしているとせっかくのとシチューが冷めてしまうので、食事を再開することにした。
美味しいものは食べ終わるのがあっという間だな・・・、できればまた食べに来たい。
僕とリノは食事を終え、再び手を合唱の形にして「「ご馳走様でした」」と声を揃えて食材たちに感謝する。
「ロマノフさん、ご馳走様でした。お代は————っ!?」
そこまで言いかけたところで、僕は重大なことに気づく。
そうだ、僕はまだこの世界の通貨、いわゆるお金を持っていない。
ということは、宿屋の代金も払えない・・・。
「ユーリク、どうしたの?」
僕が色々と困惑している様子を見て、リノが心配してか声をかけてくる。
お金を持ってないだなんて、言えない・・・。
「ユーリク君、もしやとは思うがこの国の通貨を持っていないのかい?」
ぎくり、図星だ。
「はい、持っていなのですぐに仕事を見つけてお返しします・・・。本当に申し訳ないのですが、しばらくの間お代は待っていただけないでしょうか」
言い訳をする理由もなかったので、正直に言う事にした。
だが、これでロマノフさんが許してくれるかも分からないし、何より早く、できれば今日中に仕事を見つけなくては、二日後に来る宿屋の支払いができない。
「お代はいい、今日はリノの友達がこの村に来たということで、僕なりの歓迎会のつもりだったからね」
「いやでもそれは流石に・・・!」
「大人には甘えとくべきだと思うよユーリク君? それに、今日君はメニューを見て料理を自分で選んでいないだろう?」
「そう、ですか・・・。ならお言葉に甘えさせていただきます。ロマノフさん、本当にありがとうございます」
これ以上突っぱねるのも、ロマノフさんの善意を無下にしてしまう事になるのでありがたく厚意を受け取る事にした。
その言葉を聞いてロマノフさんは満足そうだ。
だけどロマノフさん、僕はおそらく君より年上だ・・・!!
ありがたい事に、ロマノフさんのおかげで、とりあえず目先の問題は解決した。
次に考えなければならないのは、この時空の通貨を手に入れる場所だ。
早急に仕事先を探さなければ、今回はリノの身内のおかげでなんとかなったが今度は本当に犯罪者にされそうだ。
ついでにと思い、僕は次の問題についてロマノフさんに相談してみる事にした。
「仕事を探しているんです。立て続けに申し訳ないのですが、できれば僕がなんかでも働ける場所を知っていたら教えて欲しいです」
「そうか、確か今君は宿屋に泊まっているんだよね。それは早く仕事先を見つけなくては大変だな・・・」
うーん、とロマノフさんは真剣に考えてくれている。
本当にいい人だ。
リノとロマノフさん、この時空で最初に出会ったのが彼らで本当によかった。
「・・・ユーリク君、君さえよければ私の店で働かないかい? 君はなかなかルックスがいいし、いい看板になってくれそうだ」
「それがいいよユーリク!」
ロマノフさんからの申し出に、リノが跳ねながら肯定する。
「え、いいんですか!?」
考えてもいなかった申し出に、かなりの驚きを僕は受けた。
「いいも何も、君は働く場所もないのだろう? そうだな、なんなら今日からここで住み込みで働くといい。その方が私も助かるし、君も色々と自由が効くんじゃないかな?」
「・・・えぇ!?」
「絶対そうした方がいいってユーリク!ロマノフも朝は歳のせいで辛いし、ここで働くなら私も気軽に遊びに来れるから!!」
もうそうするしかなさそうだ。
驚く暇もなく、色々と決まっていく。
決して嫌だというわけでは無い。
むしろありがたすぎて、感謝してもしきれないくらいだ。
断るという選択肢は、リノのハイテンションとロマノフさんの厚意ですぐに消え、僕はここのカフェ、ル・ナトゥラで働く事になった。
「至らないことは多いですが、これからよろしくお願いします」
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