第3話 街に出かけるようです!
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日差しが眩しい。
宿屋のエントランスを通って外に出ると、暖かい日差しが僕とリノを迎えた。
本日は晴天のようで、絶好の散策日和らしい。
「来た時も思ったけど、今日は本当にデート日和だねぇ」何の気もなしにリノが言う。
リノも僕と同じ事を・・・、考えているのか?
「あ、うん。そうだね・・・」
これ、デートなの・・・!?
そもそもさっきも言ったけど、僕はもう人と話す事自体が久しぶりだ。
当然女子に免疫などないわけで・・・。
そんな事を言われたら、純情な青年は色々と意識してしまうわけで・・・。
僕はまだ見た目も、精神もまだ若いはずだと信じたい。
謎の願望を頭が行ったり来たりしていると、前から声が飛んでくる。
「ほら、何ボサッとしてるの?この時間は店が混みやすいんだから、早く行くよ!」
僕がさっきの言葉のせいでドギマギさせられている事も露知らず、すたすたと先を行くリノの声に、若干戸惑っていた僕は現実に引き戻された。
「わ、わかった!」慌てて僕は返事をし、前を行くリノを追って走る。
「今日は、霧が出なくて本当によかった・・・」と呟かれたリノの言葉は、ユーリクの耳に入ることはなかった。
僕はリノに追いつき、横並びになってマーケットに向かう。
村の商業の中心であろうマーケット、そこには今まで僕が体験したことのない光景が広がっていた。
マーケットを歩いているだけでたくさんの目ぼしいものが見つかり、歩いているだけで購買意欲が溢れてくる。
その中でも、一番最初に気になったのは、マーケットで買い物を楽しんでいる人たちだった。
マーケットで買い物をしている人々は皆、人間のようで人間ではない特徴をそれぞれが有していた。
頭部に耳が生えている人、それに加えて尻尾が生えている人もいれば舌がとても細長く、蛇のようにうねうねとさせている人も見ることができる。
獣人・・・、なのだろうか?
そもそも人間以外の種族に会ったことがないので、彼らを獣人と一括りにしていいのかも分からない。
ウサギ、猫、ライオン、羊、山羊、ワニ、ブタ、犬、カメレオンらしきものに蛇まで・・・。
中には耳や舌、尻尾だけでなく完全に動物が二足歩行を覚えたかのように見える人までいた。
そんな多種多様な人たちが、争う事もなく、ここでは買い物を楽しんでいる。
とても、いい場所だな・・・。
次に目についたのは街の外観だった。
今朝、宿屋から見下ろしたので、大体の様子は把握できていたが、実際にそこを歩いてみるのと上から見下ろすのでは、やはり違う。
上からだけでは、分からないこともとても多い。
店の看板や、道端に生えた草に花。
そこに止まって蜜を運ぶ虫や木々を渡る小動物たち。
マーケットを歩いただけでも、この村が相当に発展していることはすぐに分かった。
いつか昔に”西洋”という名前の時空で訪れた街並み(もう”キャラクター”は存在していなかったが)に、世界樹(仮)や、他の樹木の根が侵食した印象だ。
出店の種類は様々で、果物や野菜を売っている店、魚を売っている店、肉を売っている店、他にも香辛料の匂いが、食欲をそそらせる料理を出しているお店なんてのもあった。
その中でも、特に気になったのは、魔道具屋と書かれた看板を屋根の上に立てかけたお店だった。
あとで見に行ってみよう、そんな事を心に決め、リノの後ろをついて行く。
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「ここがリノの言ってたお店・・・?」
リノと一緒に歩いて15分ほど経った頃、僕たちは一軒のカフェのような建物の前に立っていた。
「そうだよ!ここがユーリクを連れてきたかったカフェ、ル・ナトゥラだよ」
「うわぁ・・・」
すごく綺麗なお店だ。
その外観に、思わずため息を漏らしてしまう。
宿屋の雰囲気とはどこか似ても似つかない雰囲気で、こちらも樫の木を中心に、所々に花と葉っぱがあしらわれ、二階にはベランダがあり丸いテーブルがいくつか見つけられる。
各テーブルには、それぞれ緑、赤、青と様々な色を使ったパラソルが、テーブルの真ん中にあけられた穴に刺さっている。
ナトゥラ・・・、”自然”というだけあり村の印象との調和を感じられる、優しい雰囲気に親しみやすさを感じられた。
「すごく綺麗な場所でしょ?かなりお気に入りの場所なの」そうリノは自慢気に話す。
「さ、早く入ろ?美味しいご飯が待ってるよ」
リノに促され、僕は木製のドアを手前に引いた。
樫の木で作られたドアを通ると、カランコロン、とドアに付けられた小さなベルが僕らを出迎える。
「おや、リノちゃんいらっしゃい。こんな時間に来るなんて珍しいね」
入ると山羊・・・だろうか?
少し丸みを帯びたツノらしき物体を、頭から二本生やした初老の山羊が僕たち、いやリノしか見えていなかったようなので、リノを優しく迎え入れる。
「ロマノフー!朝ご飯食べにきたよ」
「そうかそうか、じゃあ少しそこのテーブルで待っていなさい。すぐに用意するからね。ん・・・、そこの青年は・・・?」ロマノフと呼ばれたおじいちゃんのようにしゃがれた声で話す山羊は、僕に気づいたようだ。
「ロマノフ、紹介するね。昨日森で偶然会った男の子だよ!」
それは紹介になっているのか?
「おはようございます。えっと、ロマノフさん・・・でいいでしょうか?僕の名前はユーリクって言います。リノには森で彷徨っていたところを助けてもらいました」リノの紹介ではどう考えても説明不足だったので、後に僕が付け足す。
「ああ、ロマノフで構わないよ。君がリノの言っていたユーリク君か。昨日リノが突然、閉店間際やってきて君のことを話すからびっくりしたもんだよ」
何をリノから言われたのだろうか・・・。
気になるけど、怖いから今は聞かないでおこう・・・。
「ユーリク君、ところで君はこの村に何をしに来たんだい?観光気分で来たのなら、すぐにでもこの村から出た方がいい」ロマノフは、心配しているのか警戒しているのか、どっちとも分からない口調で僕に警告をした。
どういう意味なのだろうか・・・。
「ちょっとロマノフ、その話はしない約束でしょ・・・!?」リノもまた、ロマノフが言った事に驚きを隠せず、動揺している。
この村には何かあるのだろうか?
「失礼、今のは忘れて欲しい。君は、この村に何をしに来たんだい?」リノに言われてか、先ほどよりもかなり穏やかな口調でロマノフは僕に問い直してきた。
ここで今のことについて追求するのは、あまりこの後の為にも得策ではないと思うので、ただ質問に答えるだけにしとこう。
「探し物をしているんです。だからその手がかりを求めて、旅をしています」
無難なとこだろう。
嘘も言ってはいないはずだ。
「探し物の旅、か。何を探しているんだい?」
「すみません。言葉ではとても伝えられそうになくて・・・」
「そうか、君はリノの知り合いだ。できれば力になってあげたいが・・・」
「お気遣いありがとうございます。でも、これは僕が一人で成さなくてはならない事なので」
「なら致し方ない。言ってくれればできる限り協力しよう」
ロマノフの言葉に、感謝と申し訳なさが募る。
この時空を崩壊させるために【時空の雫】を探しているんです、なんて言えるわけもない。
「そういえばユーリクって、森に着く前はどこにいたの?きた方向は確か草原だけで何もなかったはずだけど」リノもロマノフと同じように、僕に興味本位で質問してくる。
どうしよう、そんなこと聞かれるとは思ってなかった(そもそも聞かれることがない)から何も考えていない。
「え、えーっと・・・」何を言えばこの場から逃れられるか全く思い浮かばない。
別の時空から飛んだら、たまたまここだった!なんてことも言えるわけないので・・・。
頭で、あれは違う、これはダメと色々考えていると————。
グゥ〜、と盛大にお腹が鳴ってしまった。
そう言えば、この雰囲気に飲まれて忘れていたが、ここには朝ご飯を食べに来るはずだったのだ。
「はっはっは、質問は後にして、今はご飯の時間にしようか。二人とも育ち盛りなんだ。私が手によりをかけた料理をご馳走しよう」
ロマノフから助け舟がでた。
多分僕は君より年上だぞ、ロマノフ・・・。
内心ほっとしつつ、いいタイミングで鳴ってくれた自分のお腹に「よくやった偉いぞ」と心の中で呼びかける。
それに応えるようにもう一度お腹が小さく鳴る。
二人が僕の方を見て、一人は「はっはっは」と笑い、もう一人は「ふふ」と微笑むように笑う。
流石にこれは、安堵より恥ずかしさの方が勝つので、若干顔を赤らめつつ、すぐそばにあったテーブルの席につく。
正面の席にリノは腰をかけ、二人で雑談をしながらロマノフの料理を待つことにした。
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