第6話 セルキーVSセイ国軍 大海の大決戦

 西の彼方よりセイ国艦隊が姿を現したとの情報は、トモエがアルタン島に到着してからひと月ほど経ってからのことであった。放っていた偵察部隊はセイ国軍の軍港の様子を茂く伺っていたが、そこから大艦隊が編成され、出航していくのを発見したのである。

 そうして太守レーブを中心として、木造の庁舎の会議室で軍議が開かれた。


「意外と早く来たな。数は如何か」

「楼船十隻に闘艦、游艇ゆうてい合わせて百隻とのことです。それに、例のサメ母艦も四隻……」

「凄まじい大艦隊だ……」


 太守とその側近の顔色が、たちまち悪くなる。如何に重武装のアルタン島といえど、これを真正面から迎え撃てる戦力は保有していない。


「そういえば、の飼育状況は」

「ああ、彼らですか……それなりに指示は聞くようになっていますが……」

「投入せよ」


 レーブは重々しい声色で、議場にいる部下に指示を出した。


***


 アルタン島の全体が、慌ただしい雰囲気になっていた。守備隊はすぐに矢弾を軍船に積み込むなどの出撃の準備を始めた。艦隊だけではなく、沿岸の床弩や投石機などの防御設備にも続々と兵が配置されている。慌ただしいとはいえ元々最前線の軍事拠点だけあって、その準備には手慣れたものがある。

 トモエたちも沿岸の軍基地に招かれ、そこで艦隊司令官に出迎えられた。トモエたちはあくまで外交使節であるが、同時に同盟軍という扱いでもあり、軍船に乗り込んで敵を撃滅する運びとなっている。


「ええ……あたしあんまり海で戦いたくないのよね……」


 水が怖いトモエは、軍船を前にして弱気な発言をこぼしていた。周りのセルキーたちに聞かれないような小声で呟いたところに、彼女の気遣いがある。トモエの評判はセルキーたちにも知れ渡っているため、こうした弱気な発言が聞かれれば士気を下げてしまう恐れがあるからだ。


「大丈夫ですよ。いざとなればオレがサポートしますから。それにエイセイたちもいるわけだし……」

「……まぁ、水上戦ならそこのニンゲンの女よりボクの方が役に立つだろう」

「またエイセイはそういうこと言って……」


 なぜか張り合う気まんまんといった風のエイセイに、シフはやや呆れ顔をしてたしなめた。


「まぁやり方は考えてあるから心配しないで」


 トモエはぐるんと大きく右腕を振るい、小型の軍船に乗り込んだ。

 

***


 合計四十隻の中小艦艇からなるアルタン島艦隊は、セイ国艦隊を迎え撃つべく出撃した。数としては半分もなく、艦隊の規模はいささか心もとない。

 そうして、ようやく西から迫りくる敵艦隊を目視できる距離までたどり着いた。


「うわ! 何だあれ!?」


 リコウが叫びながら、艦隊の方を指差す。段々と近づいてくる艦隊、その中に、異様に大きな軍艦があった。リコウたちが見たことのない船である。それはサメ空母に匹敵する大きさを持っていたが、船の作りは全く異なっており、楼閣のような艦橋を備えていた。


「あれが楼船という軍艦です……」

 

 リコウの傍にいるセルキーの水兵が、すかさず答えた。

 楼船と呼ばれる船は、航空母艦登場前は最も大型の戦闘艦艇であった。現在でも、直接攻撃兵器を搭載する艦艇としては最大である。投石機や床弩をずらりと並べたこの艦は、まさに水上要塞といって差し支えない威容がある。もっともその代償として動かすには多数の傀儡兵を動員せねばならず、その運用コストは高くつくのであるが。

 セイ国艦隊は、小型中型の艦艇を左右に広げて翼を張り、中央を楼船で固めていた。楼船はそのまま直進し、両翼は大きく弧を描くように回り込んでくる。まだセイ国艦隊とセルキー艦隊の間には大分距離があるが、そう時間をかけずに床弩や投石機の射程範囲に両者が収まるであろう。


 しかし、矢や岩石の応酬を始める前に、セイ国艦隊側はそれらとは異なるものを飛ばしてきた。


「さ、サメだ!」

「空飛ぶサメが来やがったぞ!」


 セルキー艦隊に向かって飛来したのは、矢でも岩石でもなく、飛行鮫であった。

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